大阪日帰り出張

大阪への日帰り出張が急に入った。新横浜9:32発のぞみ15号に乗る。700系C15編成12号車4番D席である。車中、京都まで仕事をする。京都から新大阪までの間、横浜で買っておいた焼売弁当をかき込む。

新大阪で同行者たちと落ち合う。大阪で環状線に乗り換え、目的地へ。途中の乗り換えでエスカレータに乗った際、私はちゃんと右側に立ったのだが、私の前の人が東京人らしく、左側に立って道を塞ぐ形になった。後ろから駆け上がってきた若い女性が「チッ。」と舌打ちする。「大阪の人はイラチやなあ。」と(大阪弁で)思う。移動のタクシーで、運転手のおっちゃんの話を聞く。「めちゃめちゃおもろいなあ。」と、これまた(大阪弁で)感心する。こういう大阪が好きだ。

加賀見山旧錦絵

夕方、大阪での仕事が終わる。他に用事のある同行者たちと別れる。さてどうしようか。こういうときのために、予め国立文楽劇場の四月公演の日程を調べてある。今からなら、第二部後半の「加賀見山旧錦絵」が幕見できそうだ。地下鉄堺筋線日本橋へ行く。国立文楽劇場の前で文雀とすれ違った。第一部の「玉藻前曦袂」で萩の方を遣った帰りのようだ。人間国宝に敬意を表して会釈する。国立文楽劇場の前の桜は、盛りを少しだけ過ぎたようだ。1月に娘たちと来て以来、3ケ月ぶり二度目の訪問だ。

チケット売場で「加賀見山旧錦絵」の幕見席を買おうとしたら、2幕分買うよりは、二等席の方が安いと勧められた。前半の「粂仙人吉野花王」を見る時間はないが、2,300円で「加賀見山旧錦絵」が丸々観られるなら文句はない。チケットを確保してから、ベンチに座って、出張報告を作成し、開演寸前に送信する。大急ぎで公演パンフレットを買ってから、場内に駆け込む。慌しいことこのうえない。

あらすじを読んできただけで、ほとんど予備知識のない演目だったが、「女忠臣蔵」と呼ばれる仇討ち物語で、なかなか面白かった。太夫では、「草履打の段」の十九大夫(局岩藤)・呂勢大夫(尾上)、「廊下の段」の伊達大夫、いずれも聴き応えのある語りだった。圧巻はやはり、長大な「長局の段」の綱大夫(切)と千歳大夫(後)だった。浄瑠璃でも屈指の難曲と言われているそうだが*1、綱大夫は様々な声音を巧みに使い分けて、尾上の苦悩を描き、千歳大夫はお初の愁嘆場を凄絶に語った。主の亡骸を前に、お初が「コレ申し御無念の魂はまだ、まだ家の棟においでなされう、エゝ聞こえませぬ、聞こえませぬ、聞こえませぬわいなう。」と慟哭するくだりでは、涙を誘われた。富助、清二郎、清治らの三味線も深い。

悪役の岩藤を遣うのが玉女。パンフレットのインタビュー記事によると、岩藤は初役で、女形を遣うのも9年ぶりなのだそうだ。岩藤に屈辱的な打擲を受けて自害する尾上が紋寿。武家の娘の誇りを守り、苦悩の果てに自害する尾上を見事に演じた。尾上の仇を討つのがお初。主の死の愁嘆場から、見事仇討ちを果たすまで、和生が熱演した。筋書上の必要から、岩藤とお初の人形には、女形には珍しく足がある。また、女形たちが中心なので、衣裳も美しく、陰惨な復讐劇ながら、華がある。

たとえ1演目だけにしても、文楽の四月公演が観られるとは思わなかった。週末に突如、出張をご下命くださった上司に感謝せねばなるまい。

*1:高木浩志「四代越路大夫の表現」(淡交社)の中で、越路大夫の「こんなしんどい浄瑠璃は、ちょっとありませんね。脂汗が滲み出る、そんな感じです。」という述懐が紹介されている。

綱渡りの帰京

国立文楽劇場での文楽公演が20:30に終演した。家に帰り着くために、ここからが時間との勝負だ。20:41日本橋発・地下鉄千日前線->20:42なんば着->20:46なんば発・地下鉄御堂筋線->21:01新大阪着->21:18新大阪発のぞみ52号->23:30新横浜着->23:35新横浜発・横浜線->23:37菊名着->23:42菊名発・東横線、と綱渡りの乗り換えが続くのだ。どこか1箇所でも乗り損なったり、電車が遅れたりすると、家に帰り着けなくなる。

まずは、劇場から吐き出される人込みに先駆けて日本橋までダッシュし、地下鉄千日前線に乗り、なんばでもダッシュ。新大阪では、特急券を持っていないので、みどりの窓口ダッシュ。希望する窓際は満席で、通路側になった。大急ぎで家族への土産の「こいさん」と自分の夕食の弁当とビールを買ってホームへ上がる。

21:18、東京行き最終ののぞみ52号に無事乗車。700系C26編成12号車17番D席である。メールチェックをしてから、夕食。硬くなった蝮飯をビールで流し込む。23:30、定刻通り新横浜に到着。横浜線のホームへダッシュ。23:35の東神奈川行きに乗車できて、大分気が楽になった。菊名東横線急行に乗り換えれば、もう大丈夫だ。武蔵小杉での南武線への乗り換え時間は十分ある。最終の稲城長沼行きに乗車し、何とか家に辿り着いたのであった。疲れた。出張の帰途、経路逸脱して文楽を観たりするから自業自得なのだが・・・。
四代越路大夫の表現―文楽鑑賞の手引き