「劒岳」読了

Wilm2008-10-02

来年公開予定の映画「劒岳 点の記」に備えて、原作の新田次郎「劒岳<点の記>」を読みました。

明治40年、測量官・柴崎芳太郎率いる帝国陸軍陸地測量部の測量隊が艱難辛苦の末、剣岳(2999m)を中心とする「越中奥山」の三角測量を完遂した過程が、新田次郎らしい淡々とした筆致で描かれています。残雪期の4月から降雪直前の10月中旬までの約6ケ月間、北は赤谷山(2265m)、東は坊主山(2199m)、南は越中沢岳(2598m)、西は大日岳(2501m)という広大な山域*1をひたすら登降しつつ、三角点の撰点・造標・観測を繰り返し、地図上の最後の空白地帯を埋めていきます。そのクライマックスが当時の未踏峰剣岳の登頂です。しかし、危険を冒して到達した山頂で錫丈の頭と鉄剣が発見され、「初登頂」の栄冠を失うという皮肉な結末を迎えます。上官の変心に落胆しつつも、24ケ所に及ぶ三角点の設置・測量をやり遂げた柴崎の姿は、実務家の範と言うべきでしょう。

私は、中学2年の夏休みに家族で剣岳に登っています。カニノヨコバイを何とか通過し、ようやく山頂に到達したときの感動は今も忘れられません。頂上からの景色を眺めながら、「ここにまた来ることがあるだろうか。」と思ったことを今も覚えています。それ以来、その自問にはまだ答えられていません。

写真は、今年の夏、白馬三山縦走をした際、天狗山荘の近くで撮影した剣岳の北東面です。「針の山」と形容された急峻な山容です。現地でロケをしたという上記映画の公開が今から楽しみです。
新装版 劒岳 ―点の記 (文春文庫)

*1:5万分の1地形図「立山」に相当。