十月地方公演

Wilm2008-10-05

文楽の十月地方公演・夜の部を「杜のホールはしもと」に観に行きました。両親と長女がいっしょです。本当は昼の部も観たかったのですが、早々に完売になってしまったらしく、チケットが手に入りませんでした。*1このホールは、雰囲気や音響はいいのに、座席が座りにくい(座面中央に折り畳み用の溝がある)のが難点です。

開演前に、一輔が演目の解説をしました。はきはきとして明るい話し振りに人柄が表れていました。


「二人三番叟」
三番叟は、又平が清五郎、検非違使が勘市です。役柄のせいかもしれませんが、清五郎の又平は切れ味が悪いのに対し、勘市の検非違使は、きびきびとした所作で好感がもてました。勘市は、これまでの舞台であまり印象に残っていないのですが、これからは注目したいと思います。清馗、清丈、清公の三味線は、お互いに合わせようとせず、テンポが上がるにつれて、スリリングな演奏になっていきました。


「御所桜堀川夜討」
「弁慶上使の段」です。昨年の1月に国立文楽劇場で観ましたので、2回目です。そのときは、おわさの登場から始まったのですが、今日は、冒頭を省略し、いきなり弁慶が登場します。私の贔屓の玉也です。よく健闘したものの、やはり玉女の豪快さには一歩及ばないようでした。この人の持ち味は、もっと複雑な性格の役柄にあると思います。おわさは勘十郎。いつもながら巧みな遣いです。敢闘したのは、信夫の一輔。母との短い再会を喜ぶ場面から、最後に事切れるまで、可憐な演技でした。英大夫の語りも悪くないのですが、今は亡き伊達大夫の万感こもる語りに涙したときの感動には及びませんでした。
http://d.hatena.ne.jp/Wilm/20070107


「傾城恋飛脚」
「新口村の段」。近松門左衛門の名作「冥土の飛脚」の改訂版から最後の段です。これは、何と言っても、私の贔屓・玉志の活躍を特筆したいと思います。孫右衛門の苦悩と悲嘆をみごとに表現していました。忠兵衛・梅川と今生の別れをした後、一人寂しく雪の中を歩き始める幕切れは、感動的でした。紋寿の梅川も所作の隅々まで神経が通っており、さすが名手です。紋豊の忠兵衛も、少ない出番ながら、脇を固めていました。いつも通り筒一杯の千歳大夫、渋い切語りの嶋大夫の語りもすばらしく、期待以上の名演を味わうことができました。こうなると、「冥土の飛脚」の幕切れも観てみたいところです。*2

*1:今朝、未練がましく、チケットセンターに電話したのですが、当日券や補助席も出ないとのことだったので、諦めました。

*2:今年2月の国立劇場での公演では、「道行相合かご」で終わっていましたが、原作では、孫右衛門と別れた後、忠兵衛が追手に捕らえられて幕になるということです。