ケンウッド・ハウス

今日も4時頃、目が覚めました。夕べの就寝は21時頃ですから、当然でしょう。起きて、出張報告を書き始めます。書き上げて電子メールで送信すると、出張の目的も達成して、さっぱりしました。昨日と同様、夜が明けてから、入浴、朝食にします。今日の空は、昨日とは一転、どんより曇り、午後から雨の予報です。

帰りの便は、ヒースロー空港を19時発ですから、半日の自由時間があります。この機会に、ロンドン郊外のケンウッド・ハウスへ、フェルメールの「ギターを弾く女」(1674)を観に行くことにしました。門外不出なので、そこに行かないと観ることがでない作品です。チェックアウトをした後、荷物をフロントで預かってもらい、傘と地図だけ持って出発します。

駅でオフピーク・デイ・トラベルカード(5.90ポンド)を買います。ゾーン4圏内の地下鉄とバスに何回も乗降できる、お買い得感のある1日乗車券です。ディストリクト線でノッティング・ヒル・ゲート駅まで行き、セントラル線に乗り換え、さらにトッテンハム・コート・ロード駅でノーザン線に乗り換えます。路線図さえあれば、東京の地下鉄と同様に乗りこなすことができます。ノーザン線は、キャムデン・タウン駅の先でエドガー*1方面とハイ・バーネット方面に分かれるのですが、ケンウッド・ハウスは、両方の支線の中間にあるので、どちらからでも行けます。来た方で行こうと思っていたら、エドガー駅行きが来ました。従って、ゴルダーズ・グリーン駅(右上の写真)で下車します。電車区のある田舎の駅でした。駅前には、ヴィクトリア様式の古い家が並んでいます。


駅前から210系統の赤い2階建てバスに乗車します。途中から丘陵の森の中の道になります。もうそろそろだと思って降車したのですが、周りには何もありません。手前で降りてしまったようです。右手の森の中にケンウッド・ハウスがあるはずなのですが、入口が見あたりません。仕方なく、車道に沿って歩き始め、だんだん不安になってきた頃、西門に到着しました。明治神宮の森のような園内の奥に、白亜のケンウッド・ハウスが建っていました。入場は無料ですが、小銭を寄付します。


まず2階から観て回ります。残念ながら、ほとんどが名前も知らない王族・貴族の肖像画や家族画ばかりで面白くありません。しかし、一番奥の部屋にサージェントの「マーガレット・ハイデ、第19代サフォーク伯爵夫人」(1898)がありました。私は、「気高い」という言葉は、サージェントの描く人物のためにあると思っていますが、この絵もまさにその通りです。輝くばかりの気高さに、しばらく見惚れてしまいました。

階下には、図書室、音楽室、ダイニング・ルームなどの壮麗な内装の部屋が並んでいます。そこに、ターナー、ハルス、ブーシェなどの絵が飾られており、美術館というよりは、まさに貴族の館を訪問しているような気分にさせてくれます。お目当てのフェルメールの「ギターを弾く女」(1674)は、一番奥のダイニング・ルームの窓辺にかかっていました。フェルメールが衰えを見せる最後期の作品なので、色塗りがべったりして、平面的な感は否めません。しかし、女性のちょっと悪戯っぽそうな表情が何とも言えず魅力的です*2。これで、イギリス、アイルランドにある5作のフェルメール*3のうち、4作を観たことになり、残るは、バッキンガム宮殿の王室コレクションにある「音楽の稽古」(1662)だけとなりました。しかし、これは、毎年8・9月にしか一般公開されていないので、この時期に出張が入ることを期待するしかありません。

同じ部屋には、レンブラントの「自画像」(1665)が飾られています。構図・色彩ともに、堂々とした安定感があり、数あるレンブラントの自画像の中でも傑作の部類だと思います。その隣の壁にかかっているファン・ダイクの「ジェイムズ・ステュアート」(1636)も、色香を感じさせる肖像画です。これらの名品を堪能できただけでも、ここまで来た甲斐があったというものです。建物の外に出てみると、目の前は緑豊かな庭園になっています。雨もよいのあいにくの天気でしたが、遠くにロンドンのシティ*4が霞んで見えました。

*1:綴りは「Edgware」なので、私はかってに「江戸川」と呼んでいました。

*2:彼女が来ている黄色の上着は、フェルメールの作品中6作に登場するお馴染みのもので、本作が最後の登場になります。これら6作品は、「真珠の首飾り」(1665・ベルリン国立絵画館)、「リュート調弦する女」(1665・メトロポリタン美術館)、「手紙を書く女」(1666・ワシントン・ナショナル・ギャラリー)、「女と召使」(1668・フリック・コレクション)、「恋文」(1671・アムステルダム国立美術館)、および本作です。

*3:「音楽の稽古」(1662・バッキンガム宮殿)、「マルタとマリアの家のキリスト」(1655・スコットランド・ナショナル・ギャラリー)、「手紙を書く女と召使」(1670・アイルランド・ナショナル・ギャラリー)、「ヴァージナルの前に立つ女」(1671・ロンドン・ナショナル・ギャラリー)、「ヴァージナルの前に座る女」(1675・同)、および本作。

*4:タワー42や30セイント・メアリー・アクスなどの高層ビルがうっすら見えます。