ムジカ・サンタンジェロ オペラ公演

夕方、妻といっしょにムジカ・サンタンジェロの第14回公演を聴きに、船堀まで出かけていきました。お目当ては、プッチーニの処女作「妖精ヴィッリ」です。1986年の日本初演以来、国内の演奏回数はまだ一桁の珍しい演目です。ピアノ伴奏なので、本格的なオペラ公演ではありませんが、舞台にかかるだけでも有難いと思わなければなりません。

船堀は、初めて降りる駅です。目の前が会場のタワーホール船堀でした。その名の通り、高さ115mの展望塔がビルの上に乗っています。エレベータで5階に上がると、こんなところにホールがあるのかというような場所に、小ホールがありました。300席のこぢんまりしたホールです。座席は自由。ほぼ満席の盛況です。

ロッシーニ絹のはしご
1曲目は、ロッシーニの「絹のはしご」です。これまで序曲を聴いたことがあるだけで、全曲を聴くのはこれが初めてです。筋立ては、オペラ・ブッファにありがちな、恋のどたばた喜劇ですが、独唱や重唱には、音階を駆け巡ったり、跳躍したり、かなりの技巧を要求する曲が目白押しです。歌唱が主体のオペラなので、ピアノ伴奏でもあまり気になりませんした。舞台装置は、ガーデニング用とおぼしき縦長の格子ラティスが7基立ててあり、そのうちの3つにクリスマス用の電飾が点滅しているという簡素なものです。

歌手では、ジュリアの松山美帆が安定した歌唱を聴かせてくれました。また、ジェルマーノの金子亮平が演技・歌唱とも秀逸で、フィガロのような役回りを巧みに演じていました。

プッチーニ「妖精ヴィッリ」
10分の休憩の後、後半の「妖精ヴィッリ」が始まります。この曲は、プッチーニが書いた最初のオペラです。作曲コンクールに応募して落選したということですが、プッチーニは最初からプッチーニだったということを感じさせる歌唱・管弦楽ともに充実した作品です。できれば、こちらは管弦楽伴奏で聴きたかったところです。舞台装置は、大判の格子ラティスと垂れ幕でシュヴァルツヴァルトを表現しようという苦心の跡が窺えました。

アンナの小森美枝は、中域が濁るので、あまり感心しませんでした。ただ、「このあとロベルトは永遠に責め苛まれるんだろうなあ、桑原桑原。」という怖さは十分感じさせてくれたので、適役ということかもしれません。そのロベルトを歌った三村卓也は、誠実な歌いぶりで、「一時の出来心で永遠に呪われるのは、割りに合わんよねえ。」と同情させてくれました。金子亮平は、「絹のはしご」の軽妙な演技とはうって変わって、グリエリモの復讐のアリアを暗い眼差しで歌いました。これからが楽しみなバリトンです。

対照的なイタリア・オペラをしっかりした歌唱で堪能し、満足して帰途につきました。