テンシュテットのマーラー 偉大な白鳥の歌

先週、手持ちのマーラー第6交響曲のCDリストを眺めているうち、「欠けているとしたら、テンシュテットだな。」と思いました*1。クラウス・テンシュテットマーラーは、昔、第3と第7のスタジオ録音のレコードを聴いて、軟弱な演奏という印象を受けて以来、敬遠していました。しかし、交響曲全集が完成した後、別途発売された、第1・5・6・7番の演奏会実況録音の評判が高いことは知っており、何となく気になっていました。この機に、中期交響曲をまとめて聴いてみようと、HMVに注文しました。
http://d.hatena.ne.jp/Wilm/20080511

今日、3曲立て続けに聴いてみました。結論から言えば、これらを聴かずに終わったら、重大な機会損失になるところでした。第5.第6、第7いずれも、息の長いフレージングの弦と咆哮する金管群を特徴とする、情熱的な演奏です。力感に溢れる一方、ほの暗い情念が渦巻き、マーラーが希求したのは、こういう演奏なのではないかと思わせるほどの説得力があります。テンポは全体的に遅めで、第5・第1楽章冒頭のトランペット独奏、第6・終楽章の第1ハンマーと第2ハンマーの間の行進曲などは、驚くほどの遅さです。しかし、まったく弛緩を感じさせません。

第5・第6とも、私の好きな演奏*2にいきなり上位入りですが、特に、第7は、ようやくクレンペラー盤と比較しうる演奏に接することができたという感慨を味わいました。終楽章が単なる空騒ぎに終わらず、最後に巨大な音楽が立ち上がる様に、久しぶりに深い感動を味わいました。

テンシュテットの公式録音は、この第7の演奏会実況録音*3が最後ということです。その後、長い闘病の末、1998年1月11日に亡くなりました。今年は、テンシュテットの没後10年にあたります。この第7は、彼の偉大な白鳥の歌と言えるでしょう。
マーラー:交響曲第5番 マーラー:交響曲第6番 マーラー:交響曲第7番

*1:私は、バーンスタインの情緒的な演奏は苦手です。インバルは、先日の都響との第8で見直しました。

*2:第5:ショルティ(1970年盤)、バルビローリ、マゼール、ラトル等。第6:ショルティ、ラトル、バルビローリ、井上道義(2000年盤)等。

*3:1993年5月14・15日にロンドンのロイヤル・フェスティヴァル・ホールで収録。