グレツキ交響曲第3番 苦い嘆きの歌

昨日買ってきたグレツキ交響曲第3番のCDを聴いてみました。まず、驚かされるのは、全3楽章の速度記号が、レント、レント・エ・ラルゴ、レントとなっており、いずれも緩徐楽章であることです。第1楽章の冒頭から、重厚な弦楽合奏が無限窮動を繰り返し、やがて、その上に透明なソプラノ独唱が乗ってきます。現代音楽としては、わかりやすい曲と言えるでしょう。

第1楽章は、15世紀ポーランドの「嘆きの聖母」の哀歌、第2楽章は、ポーランド・ザコパネ市にあったゲシュタポ本部の独房の壁に残されていた祈りの言葉*1、第3楽章は、争乱の中、息子の亡骸を探す母親を描いたポーランド・シレジア地方の古謡と、いずれも苦い嘆きの歌ばかりです。最後は、希望を見出せないまま、陰鬱に全曲が結ばれます。胸に深く沁み入る音楽です。

この曲は、「癒し」の音楽として人気を博したようですが、ちょっと信じられないことです。気分が塞いでいるときに、慰謝を求めてこの曲を聴くと、二番底に落ち込むおそれがあるので、要注意です。全曲を聴いて一つはっきりしたのは、あの拙劣な映画「靖国 YASUKUNI」には、およそ相応しくない曲だということです。*2

私が買ったNAXOSのヴィト盤は、以前は、ジェケット写真にムンク「叫び」(1893)*3を使っていたようですが、現在は、涙を流す聖母マリアを描いた13世紀イギリスのステンドグラスの写真に差し替えられています。この方が、ずっと曲想に合っていると思います。

*1:作者は、当時18歳のHelena Wanda Blazusiakowna。1944年9月25日に収監された彼女の運命は不明です。

*2:エンドロールでは、曲名は表示されましたが、音源や演奏者に関する情報は表示されていませんでした。既存の音源を使用したにせよ、新たに録音したにせよ、適切な権利処理をしたうえで、出所を明示するのが近代映画の常識です。

*3:ムンク美術館所蔵の2点のうち、2004年の盗難を免れた方。