マーラー第6交響曲異稿
ラトル指揮バーミンガム市響の演奏
4月の末に、実演でマーラーの第8交響曲を聴いて、やはりマーラーはいいなあと思いました。そこで、久しぶりに、CDでマーラーを聴いてみることにします。マーラーらしい歯応えのある曲と言えば、やはり第6です。全集を買ったきり、ほとんど手をつけていなかったラトル指揮バーミンガム市響のCDを取り出しました。以前聴いたベルリン・フィル盤の2年後に、手兵を使って録音したものなので、ラトルの解釈が一層徹底しています。戦闘的な第1楽章の後に、耽溺的なアンダンテがくるのはベルリン・フィル盤と同じです。
粘着質なスケルツォ、破滅に向かって一直線に突き進む最終楽章と聴き進んで、終結部まで来たとき、おや、と思いました。第3ハンマーを打撃しています。ベルリン・フィル盤では慣例に従って省略していました。これまで、私の知る限り、第3ハンマーの打撃を励行した指揮者は、ショルティとバーンスタインだけでしたが、ラトルも加わることになりました。私は、第3ハンマーは打撃した方がよいと考えているので、歓迎です。
http://d.hatena.ne.jp/Wilm/20061006
第6の異稿問題
第6は、初演後、マーラー自身が(1)中間楽章の順番をアンダンテ-スケルツォに変更、(2)第4楽章407-414小節の弦楽部を1オクターヴ上げるよう指示、(3)第4楽章第3ハンマーを削除、といった改訂を実施したため、初稿版を採用するか、改訂版を採用するかによって、演奏に差異が生じることになりました。現在、(1)スケルツォ-アンダンテ、(2)オクターヴ上げ、(3)打撃なし、が主流になっています。
私の手元にある第6交響曲の総譜は、アメリカのDover社のもので、1906年にKahnt Nachfolger社から出版された楽譜の完全復刻版と注記されています。(1)スケルツォ-アンダンテ、(2)オクターブヴ上げの指示なし、(3)打撃あり、となっているので、初稿版です。私の好みは、まさにこの初稿版通りの演奏ということになります。
所有CDの演奏状況
興が乗ったので、私が持っている1415種類*1の第6のCD録音がこれらをどう処理しているかを調べてみることにしました。
指揮者 | 管弦楽 | 録音 | 中間楽章 | 407-414 | 第3ハンマー |
---|---|---|---|---|---|
アッバード | シカゴ響 | 1979 | S-A | 8^^^ | - |
バルビローリ | ベルリン・フィル | 1966 | A-S | - | - |
バルビローリ | ニュー・フィルハーモニア | 1967 | A-S | - | - |
バルビローリ | ニュー・フィルハーモニア | 1969 | A-S | - | - |
ベルティーニ | ケルン放送響 | 1984 | S-A | - | - |
ブーレーズ | ヴィーン・フィル | 1994 | S-A | 8^^^ | - |
井上道義 | ロイヤル・フィル | 1988 | S-A | 8^^^ | - |
井上道義 | 新日本フィル | 2000 | S-A | 8^^^ | - |
マゼール | ヴィーン・フィル | 1982 | S-A | 8^^^ | - |
ラトル | ベルリン・フィル | 1987 | A-S | - | - |
ラトル | バーミンガム市響 | 1989 | A-S | - | あり |
ショルティ | シカゴ響 | 1970 | S-A | - | あり |
セル | クリーヴランド | 1967 | S-A | 8^^^ | - |
テンシュテット | ロンドン・フィル | 1991 | S-A | - | - |
若杉弘 | 東京都響 | 1989 | S-A | 8^^^ | - |
こうやって見てみると、私の好み通りに演奏しているのは、ショルティだけということになります。私は、第6はショルティ盤が最も気に入っているのですが、やはり理由があったというわけです。中間楽章の順番を勝手に入れ替えて聴くことにすれば、ラトル/バーミンガム市響盤もいい勝負になります。
なお、若杉盤は、第3ハンマーを打撃しているようにも聞こえます。しかし、私は、この演奏をサントリー・ホールで聴いているのですが、第3ハンマーを打撃した記憶はありません。音色が第1・第2ハンマーと異なるので、おそらくティンパニを強打させたものと思われます。
*1:2008年5月18日追記。