マーラー第6交響曲異稿

Wilm2008-05-11

ラトル指揮バーミンガム市響の演奏
4月の末に、実演でマーラーの第8交響曲を聴いて、やはりマーラーはいいなあと思いました。そこで、久しぶりに、CDでマーラーを聴いてみることにします。マーラーらしい歯応えのある曲と言えば、やはり第6です。全集を買ったきり、ほとんど手をつけていなかったラトル指揮バーミンガム市響のCDを取り出しました。以前聴いたベルリン・フィル盤の2年後に、手兵を使って録音したものなので、ラトルの解釈が一層徹底しています。戦闘的な第1楽章の後に、耽溺的なアンダンテがくるのはベルリン・フィル盤と同じです。

粘着質なスケルツォ、破滅に向かって一直線に突き進む最終楽章と聴き進んで、終結部まで来たとき、おや、と思いました。第3ハンマーを打撃しています。ベルリン・フィル盤では慣例に従って省略していました。これまで、私の知る限り、第3ハンマーの打撃を励行した指揮者は、ショルティバーンスタインだけでしたが、ラトルも加わることになりました。私は、第3ハンマーは打撃した方がよいと考えているので、歓迎です。
http://d.hatena.ne.jp/Wilm/20061006

第6の異稿問題
第6は、初演後、マーラー自身が(1)中間楽章の順番をアンダンテ-スケルツォに変更、(2)第4楽章407-414小節の弦楽部を1オクターヴ上げるよう指示、(3)第4楽章第3ハンマーを削除、といった改訂を実施したため、初稿版を採用するか、改訂版を採用するかによって、演奏に差異が生じることになりました。現在、(1)スケルツォ-アンダンテ、(2)オクターヴ上げ、(3)打撃なし、が主流になっています。

私の手元にある第6交響曲の総譜は、アメリカのDover社のもので、1906年にKahnt Nachfolger社から出版された楽譜の完全復刻版と注記されています。(1)スケルツォ-アンダンテ、(2)オクターブヴ上げの指示なし、(3)打撃あり、となっているので、初稿版です。私の好みは、まさにこの初稿版通りの演奏ということになります。

所有CDの演奏状況
興が乗ったので、私が持っている1415種類*1の第6のCD録音がこれらをどう処理しているかを調べてみることにしました。

指揮者 管弦楽 録音 中間楽章 407-414 第3ハンマー
アッバード シカゴ響 1979 S-A 8^^^ -
バルビローリ ベルリン・フィル 1966 A-S - -
バルビローリ ニュー・フィルハーモニア 1967 A-S - -
バルビローリ ニュー・フィルハーモニア 1969 A-S - -
ベルティーニ ケルン放送響 1984 S-A - -
ブーレーズ ヴィーン・フィル 1994 S-A 8^^^ -
井上道義 ロイヤル・フィル 1988 S-A 8^^^ -
井上道義 新日本フィル 2000 S-A 8^^^ -
マゼール ヴィーン・フィル 1982 S-A 8^^^ -
ラトル ベルリン・フィル 1987 A-S - -
ラトル バーミンガム市響 1989 A-S - あり
ショルティ シカゴ響 1970 S-A - あり
セル クリーヴランド 1967 S-A 8^^^ -
テンシュテット ロンドン・フィル 1991 S-A - -
若杉弘 東京都響 1989 S-A 8^^^ -

こうやって見てみると、私の好み通りに演奏しているのは、ショルティだけということになります。私は、第6はショルティ盤が最も気に入っているのですが、やはり理由があったというわけです。中間楽章の順番を勝手に入れ替えて聴くことにすれば、ラトル/バーミンガム市響盤もいい勝負になります。

なお、若杉盤は、第3ハンマーを打撃しているようにも聞こえます。しかし、私は、この演奏をサントリー・ホールで聴いているのですが、第3ハンマーを打撃した記憶はありません。音色が第1・第2ハンマーと異なるので、おそらくティンパニを強打させたものと思われます。
マーラー : 交響曲第6番イ短調 「悲劇的」 マーラー:交響曲第6番「悲劇的」

*1:2008年5月18日追記。