「狐と笛吹き」 異類婚姻譚

劇作家・北條秀司がラジオドラマとして書いた後、1952年に歌舞伎、1957年に文楽として上演された作品なのだそうです。今回、作家の13回忌追善として、51年ぶりに再演されることになったとのことです。物語は、宮廷楽士・春方(玉女)と狐の化身・ともね(和生)のいわば異類婚姻譚です。

床では、文字久大夫、咲甫大夫、呂勢大夫らが健闘したのですが、いかんせん、「さわらないで、きらい大きらい」「私たちは一生清らかな二人でいよう。」「愛は互いを奪い合うものではない。」「あの湖が二人の世界。」等々、現代語の安っぽい台詞が続くので、興醒めしてしまいます。半世紀もの間、埃を被っていた作品なので、所作の型があるはずもなく、玉女も和生もやりにくそうでした。「これでは、初演後そのままお蔵入りになったのも無理はないわなあ。」というのが正直な感想です。

前半と後半の感動の落差が激しい公演でした。できれば、順番を入れ替えてくれた方がよかったのに、と思いつつ、帰途につきました。*1

*1:順番以前の問題として、人間国宝6人中3人を動員した贅沢な「心中宵庚申」と抱き合わせでなければ、興行的にも苦しかったのではないでしょうか。もっとも、そのおかげですばらしい「心中宵庚申」が観られたのだとすれば、むしろ感謝すべきかもしれません。