「スカイ・クロラ」原作読了
押井守監督の新作映画「スカイ・クロラ」の劇場公開日が8月2日に決まり、宣伝露出が増えてきました。そこで、原作の森博嗣「スカイ・クロラ」(中公文庫)を読んでみました。
舞台は20世紀末の日本。*1しかし、現実の日本とは異なる歴史的発展過程を経たらしく、戦争の悲惨さを伝承するために、民間企業が戦争事業を請け負っています。遺伝子制御剤の開発途上で生まれた、老化しない人間「キルドレ」が戦闘に従事しています。このような世界観をことさらに強調することもなく所与の前提としたうえで、「キルドレ」のパイロット・函南優一の日常を淡々と描いていきます。
地上での「キルドレ」たちの会話は、虚無的な警句の遣り取りのような空疎感が漂います。それに対し、空中戦の場面は、映像的と言ってよいほどの現実感があります。その際立った対比が、戦闘の中にのみ安住を見出す「キルドレ」の心象風景を反映している、という凝った仕掛けになっています。なかなか面白い小説だなあと感心しながら読み進めたのですが、最終章(episode 5)に至って、俄かに説明臭くなってしまいます。三ツ矢碧にト書きのような台詞を喋らせてしまい、作者も我慢しきれなくなったと見えます。函南の独白も、どこか説教じみています。本編はepisode 4で終えてepilogueへつないだ方が、prologueと循環して、余韻が残ったかもしれません。などと、読者は勝手な無茶を言うのでした。
押井監督がこの作品をどのように映像化するのか、興味深いところです。原作のいい意味での「感覚的」な味わいをうまく掬い取ってくれればと思います(予告編を観る限り、それを期待させます)。