「妹背山婦女庭訓」

第3部は、「妹背山婦女庭訓」から「道行恋苧環」「鱶七上使の段」「姫戻りの段」「金殿の段」「入鹿誅伐の段」。ここから、妻と次女が合流する。座席は、1等席になり、9列目に前進した。

「道行恋苧環」は、津駒大夫、呂勢大夫、咲穂大夫、靖大夫、希大夫が並び、三味線は、人間国宝の寛治に率いられて、喜一朗、龍爾、寛太郎、清公ら若手が勤める。橘姫(清之助)、求馬(和生)、お三輪(簑助)の三人が優雅に舞う。

休憩を挟んだ後半の圧巻は、何と言っても、「金殿の段」だ。義太夫は、切の嶋大夫・清介。嶋大夫は、今回初めて聴くが、渋い語りだ。求馬を探して宮殿に迷い込んだお三輪が、官女たちに愚弄された挙句、鱶七に刺される。自分の血が入鹿誅伐に必要な訳を聞いて喜びはするものの、求馬との絆だったはずの白い苧環を抱いたまま息絶える姿は哀れだ。凄いと思ったのは、「思ひの魂の糸切れし」という語りさながらに、お三輪が絶命したことだ。その瞬間、簑助の体からも、ふっと魂が抜けるように見えた。簑助の遣う人形は、「仮名手本忠臣蔵」の由良助以来二度目だが、まるで人形が生命を得たような、生き生きとした動きに感銘を受けていた後だっただけに、印象的だった。名人の手に掛かると、人形も生き、死ぬのだということを実感した。

何とか、3部連続鑑賞を乗り切った。重い歴史物の三連発だったので、きつかった。ところどころで意識が途切れたのは事実だが、そのおかげでもったのだろう。しかし、通し狂言ならいざ知らず*1、本日のような見取りの公演は、全部観るにしても、やはり日を分けるべきだろう。

半蔵門線から田園都市線経由で帰ろうと思ったのだが、高津で人身事故発生とのことで、渋谷で止まってしまった。三軒茶屋まで移動してから運転再開を待つという車内放送があったので、慌てて下車して、井の頭線小田急線経由で帰った。この判断は正しく、運転再開は1時間後だったようだ。

*1:5月の東京公演は、「絵本太功記」の通し狂言なので、また1日ぶっ通しで観ることになりそうだ。信長ファンの長女は、もう全編観る気でいる。