「奥州安達原」

売店で弁当を買ってから席に着く。最後列の2等席だが、劇場が広くないので、これでも十分である。10:45から二人遣いの「幕開き三番叟」が始まる。これを観ると、文楽の感興が湧いてきて楽しい。

第1部は「奥州安達原」から「朱雀堤の段」と「環の宮明御殿の段」だ。

「朱雀堤の段」見台がずらりと並び、呂勢大夫、津国大夫、南都大夫、つばさ大夫、睦大夫、文字栄大夫、相子大夫、芳穂大夫、呂茂大夫らが入れ替わり立ち代わり登場する。三味線は宗助。袖萩役の呂勢大夫の朗々とした音声が美しい。人形では、紋寿が袖萩の哀感を漂わせ、玉也が平禎仗の謹厳さを表現する。

「環の宮明御殿の段」義太夫では、切の十九大夫・富助が深深とした語り・三味線を聴かせる。人形では、和生の浜夕が秀逸。無表情な「婆」の首なのに、挙措の中から慈愛溢れる母親の人柄が滲み出る。勘十郎の貞任・玉女の宗任の兄弟は、いずれも豪快だ。しかし、舅・禎仗、妻・袖萩の屍を乗り越え、娘・お君(紋吉)を置き去りにしていく貞任の非情さには、どうも感情移入できない。

第2部までの幕間に、国立劇場の前庭に出てみると、「開場三十周年記念植樹」の紅梅(小田紅)・白梅(貴山白)が、香りもほのかに咲いていた。1996年に開場三十周年記念公演で菅原伝授手習鑑」を上演する際、大宰府天満宮から寄贈を受けたものだという。