四世津大夫の「一谷嫩軍記」のCD

昨日、文楽公演を観たばかりの「一谷嫩軍記」のCDがHMVから届きました。四世竹本津大夫と竹澤団七による「熊谷陣屋の段」*1の素浄瑠璃の録音です。四世津大夫は、「筒一杯」と形容される豪放な芸風で知られた太夫です。さっそく聴いてみると、一言一句噛み締めるような語りです。亡くなる約1年半前の津大夫69歳のときの録音ですが、衰えは微塵も感じられず、息詰まる緊張感が持続します。それだけに、段切近くの有名な「十六年も一昔。」の後、暫し沈黙してから、儚げに慨歎する「ハ夢であったなア。」が一際強く印象づけられました。

現在、このような語りを聞かせてくれる太夫はもはや存在しないと言ってよいでしょう*2。録音の少ない津大夫ですが、この「熊谷陣屋」を遺してくれたことに感謝したいと思います。
〈日本/文楽〉文楽 一谷嫩軍記 熊谷陣屋の段

*1:相模と藤の局による回向の場面(「こそは入相の」から「時刻移ると直実」の直前まで)は省略されています。

*2:津大夫の弟子だった津駒大夫がわずかに師匠の芸風を垣間見させるのみです。私は、津駒大夫の今後の成長に期待しています。