昭和音楽大学の「夢遊病の娘」

妻といっしょに、新百合ヶ丘昭和音楽大学のオペラ公演を聴きに行きました。演目は、ベッリーニの「夢遊病の娘」*1です。ベッリーニ愛好者の方々には申し訳ないのですが、演目よりも、2007年4月に杮落としをして以来、まだ聴く機会のなかった「テアトロ ジーリオ ショウワ」という(決して名前を覚えられそうもない)演奏会場自体が目的です。川崎市内に本格的なオペラ公演が可能な施設ができたのですから、見逃すわけにはいきません。


本格的なオペラハウス
新百合ヶ丘駅の北、徒歩数分のところに「テアトロ ジーリオ ショウワ」が建っています。ロビーが狭いのが難ですが、大学所有のホールですから、やむをえないでしょう。ヨーロッパの歌劇場のように馬蹄形に配置した座席は、オペラ公演時で1,265席と、ちょうどいい大きさです。深紅の緞帳が下がり、質素ながら落ち着いた内装です。音響は、ほどよい残響で、3階席でも明瞭な音像を把握することができました。


本格的なオペラ公演
さて肝心の演目ですが、「夢遊病の娘」は、一部のアリアを聴いたことがあるだけで、全曲を聴くのはこれが初めてです。34歳の若さで亡くなったベッリーニは、優しい人柄だったのか、音楽は、あくまで円満で明るく、翳りを見せることはほとんどありません。次々と美しい独唱が続き、心地よいオペラでした。

演出・演奏は、正直あまり期待していなかったのですが、どうしてなかなか、いずれも本格的で、ちょっと驚きました。プログラムに掲載された昭和音楽大学のオペラ公演史を見ると、1967年1月に「夢遊病の娘」の「本格的日本初演」を果たした後、今回で5回目の公演になり、プロダクションとして確立しているようです。馬場紀雄の演出は、至ってオーソドックスでありながら、群集一人一人の動きにまで配慮しています。舞台装置・衣装・小道具いずれも具象的・現実的に作り込まれており、安心感があります。

卒業者を中心とする独唱陣では、主役アミーナの庄司奈穂子とエルヴィーノの小山陽二郎が美しい歌唱を聴かせてくれました。ロドルフォ伯爵の東原貞彦も落ち着いた歌いぶりで、若い歌手には見えませんでした。汚れ役リーザの前田多鶴、テレーザの吉田郁恵、アレッシオの田中大揮らも好演です。星出豊指揮の同学管弦楽部のオーケストラは、終始安定した演奏でした。

マチュアと言っても、音大生の演奏(独唱を除く合唱と管弦楽)ですし、レバートリーとして定着しているのですから、うまくて当たり前かもしれません。しかし、それでもプロの団体に比肩しうる公演を成し遂げるのは、並大抵のことではないと思います。今後、この大学のオペラ公演には必ず足を運ぼうと思います。

*1:現在は、「夢遊病の女」という邦題の方が大勢を占めているようです。原題は「La Sonnambula」(夢遊病者)なので、「女」でも「娘」でもないのですが。