九月公演第一部

文楽の九月公演を国立劇場へ観に行きました。第一部・第二部ともに、長女と観に行くはずだったのですが、修学旅行から帰ったばかりで疲労困憊の長女は、朝起きられず、急遽、妻を担ぎ出すことになりました。長女は、第二部で妻と交替することになりました。

そんなこんなで出掛けに揉めたので、劇場の到着は10:40頃。入口には、清之助の清十郎襲名祝いの飾りつけ*1がしてありました(写真)。妻のイヤホンガイドを借りたり、弁当を買ったり、幕開け三番叟を観たり、幕前の慌しい時間を過ごします。

「近頃河原の達引」
三月の地方公演で観たので、2回目になります。

「四条河原の段」。伝兵衛を遣うのが玉女。やはり、こういう男前の役柄が似合います。官左衛門の勘禄は、憎憎しげな悪役振りを発揮します。久八の幸助も、きびきびとした所作が快く、いい人形遣いになってきました。手摺りの活躍とは裏腹に、伝兵衛と官左衛門の達引が始まるところで振り落とし幕がなかなか落ちず、冷や冷やしました。松香大夫と清友の床は、まずまずといったところ。

「堀川猿廻しの段」。住大夫と綱大夫の切語りが前後を語るという贅沢な布陣です。格から言えば、住大夫が後半を語ってもよいはずですし、芸風から言っても、住大夫の祝い唄を聴いてみたかったところです。*2おしゅんが簑助。「人の落ち目を見捨つるを廓の恥辱とするわいな。」「そりゃ聞こえませぬ伝兵衛さん。」などの有名な詞が実感を伴いました。与次郎の紋寿、母の紋豊もいい味を出していました。

「近頃河原の達引」は、作者不詳なれど、よくできた浄瑠璃だと思います。


「口上」
吉田清五郎改め五世豊松清十郎の襲名披露向上です。襲名披露口上を観るのはこれが初めてです。*3舞台上には、前列下手から文字久大夫、勘十郎、簑助、清十郎、住大夫、寛治、後列下手から勘禄、簑二郎、清三郎、清五郎が居並びます。文字久大夫の前口上に続いて、住大夫、寛治が挨拶を述べます。続いて、簑助がただ一言、搾り出すような声で「(清十郎を)よろしくお頼み申し上げます。」と挨拶しました。最後に勘十郎が思い出話を交えた挨拶をして、襲名披露口上はお開きとなりました。文楽の伝統を感じさせる儀式でした。


「本朝廿四孝」
「十種香の段」。八重垣姫は、本日の主役・清十郎です。勝頼を簑助が遣うので、師匠を相手にその当たり役に挑むという趣向です。さらに、濡衣の文雀、謙信の勘十郎、義太夫節の嶋大夫と錚々たる顔ぶれです。ただ、どちらかというと会話劇に近い内容なので、正直、あまり楽しめたとは言いがたいところでした(昨日までの睡眠不足が祟ったせいかもしれません)。

「奥庭狐火の段」。八重垣姫は、三人出遣いになります。何と、左が勘十郎、足が簑紫郎です。狐が八重垣姫に憑依してからは、早替りなどのケレンが続出し、清十郎は大忙しになります。それを勘十郎が終始落ち着いた所作で支えていました。津駒大夫・寛治の床とも相俟って、芝居の醍醐味を味わわせてくれました。清十郎の襲名披露としては大成功と言ってよいでしょう。今後ますますの活躍を期待します。

*1:「まねき」というのだそうです。

*2:綱大夫の語りはちょっと生真面目で、津大夫の録音に聴くような豪放磊落さがほしい気がしました。

*3:直近の襲名披露口上は、2003年5月に国立劇場小劇場で行われた吉田簑太郎改め三世桐竹勘十郎襲名披露口上。直近の襲名披露興行は、2006年5月に国立劇場小劇場で行われた鶴澤燕二郎改め六世鶴澤燕三襲名興行。