インバル・都響のマーラー第8交響曲

Wilm2008-04-29

家族でエリアフ・インバル指揮東京都交響楽団の演奏会に出かけました。「エリアフ・インバル プリンシパル・コンダクター就任披露公演」と銘打って、マーラー交響曲第8番を演奏します。場所は、ミューザ川崎シンフォニーホールです。昨年暮に聴いた同じ顔合わせの第九が空前絶後の名演*1だったので、めったに舞台にかからないマーラーの第8交響曲*2を聴きに行くことにしたのです。


世界有数のマーラー・オーケストラ
期待に違わず、すばらしい演奏でした。都響は、インバルの的確な統率のもと、安定した演奏を展開しました。若杉、ベルティーニ、インバルらの指揮下で数多くのマーラー交響曲を演奏した実績の賜物でしょう。おそらく、これだけマーラーの実演経験のあるオーケストラは、世界的に見ても珍しいのではないでしょうか。コンサートマスター矢部達哉ヴィオラ首席・鈴木学、ホルン首席・笠松長久、トランペット首席・高橋敦らがいいソロを聴かせてくれました。


まずまずの歌唱陣
独唱者では、澤畑恵美が第1ソプラノの重責をきちんと果たしました。メゾ・ソプラノの手嶋眞佐子も相変わらず美しい声です。彼女らは、今や日本におけるそれぞれの声域の第一人者と言ってよいでしょう。テノールの福井敬は「Blicket auf」以降のマリア崇拝の博士のソロを朗々と歌い上げました。他方、バリトンの河野克典とバスの成田眞は、声が通らず、おかげで第2部の中盤がかなりダレてしまいました。

晋友会合唱団は、2000年5月の井上道義指揮新日本フィルの同曲演奏以来、久しぶりに聴きましたが、そのよく訓練されたアンサンブルが健在で安心しました。NHK東京児童合唱団も健闘しました。大管弦楽や大合唱に圧倒されず、存在を主張していたのは立派です。


ミューザ川崎の音響
今日は、3Cブロック中央の席でした。オーケストラ全体を見下ろす形になり、視覚的にも音響的も申し分のない席でした。バンダ(トランペット4、トロンボーン3)が2組、3階席両翼*3に配置され、第3ソプラノ(半田美和子)も3階左翼*4で歌ったので、これらを間近で聴くことができたのも幸運でした。ミューザ川崎は、さらさらしたサントリーホールと、ねっとりしたすみだトリフォニーホールのちょうど中間の音色を持つ、首都圏有数のホールの一つと言ってよいと思います。こんなホールに電車一本で行けることを、川崎市民として誇りに思います。*5


果たして宇宙が鳴動する音なのか
このマーラーの第8交響曲は、「千人の交響曲」と呼ばれる大曲で、*6マーラーが「宇宙が鳴動する音を再現した。」と語ったと伝えられています。しかし、私には、この曲が発する大音響は、肥大し切った後期ロマン派の音楽が自重に耐えかねて崩壊していく様に聞こえます。その音が明るく壮麗なだけに、いっそう悲劇的です。実際、マーラーは、この曲を書いた後、「大地の歌」、第9交響曲の内省的な世界に沈潜していきます。私にとって、マーラーの第8交響曲は、後期ロマン派音楽の巨大な墓碑として聳え立っています。

*1:もちろん、私がこれまで聴いた27回の第九の実演の中で、という意味です。

*2:ミューザ川崎でこの曲が演奏されるのは、2004年7月の東京交響楽団による杮落とし公演以来、4年ぶり2回目のはずです。

*3:3-L1扉付近と3-R1扉付近。

*4:3-L1扉付近。

*5:児童合唱の最後の一人が舞台を去るまで拍手を続けた聴衆のマナーも特筆に価します。

*6:今日の演奏は、ざっと勘定したところ、バンダを含む管弦楽が約120名、独唱・合唱が約380名の合計約500名だったようです。