文楽地方公演

冷たい雨の中、長女と二人で、吉祥寺の前進座劇場文楽地方公演を観に出かけました。長女はどうも雨女のようです(彼女に言わせると、私が雨男)。演目は、「近頃河原の達引」と「道行初音旅」。地方公演の恒例で、開演前に技芸員が出し物の解説をしてくれます。今回は、文司です。まじめで丁寧な語り口にお人柄が表れていました。今は亡き師匠・文吾の跡を継いで頑張ってもらいたい人形遣いです。


「近頃河原の達引」 悲劇と喜劇の同時進行
「四条河原の段」では、伝兵衛(和生)と官左衛門(亀次)が斬り合う場面が圧巻です。床(文字久大夫と清二郎)は沈黙し、袖から地唄と細棹が聞こえてきます。師走の雨の夜、祇園の花街から川越しに流れてくる地唄を背景に、二人の男が切り結ぶ姿に、江戸人の独特の美意識を感じます。

「堀川猿廻しの段」では、おしゅん(文雀)と伝兵衛の祝言に、与次郎(玉女)が贈る猿廻しが悲劇を強調します。猿の滑稽な所作に客席から笑いが起こりますが、おしゅんと伝兵衛は身じろぎもせず、俯いていくばかりです。猿たちが演じた夫婦らしい生活を送ることもなく、このまま死出の道に旅立つ二人の姿が哀れでした。

文雀は、ますます枯れた芸を見せてくれました。この老大家の芸を一つでも多く観ていきたいものです。伝兵衛の性根を見事に演じた和生は、最近さまざまな役柄をこなし、芸の幅が広がってきたようです。大夫では、前の千歳大夫がいつもの熱演を聴かせ、切の嶋大夫も、渋い語り口でした。宗助と清丈の猿廻しの三味線も目覚しいものでした。


「道行初音旅」 残念ながら今一つ
後半の「道行初音旅」は、つい先日、本公演で観たばかりのせいか、あまり感銘を受けませんでした。勘十郎と比較しては可哀想かもしれませんが、清五郎の狐忠信は、もう少し技の冴えがほしいところです。清三郎の静御前は、演技の前に、人形の拵えがぴしっとしておらず、形が崩れたように見えたのが気になりました。