レオナルド・ダ・ヴィンチ「受胎告知」

午後、妻と次女といっしょに国立博物館に「レオナルド・ダヴィンチ-天才の実像」展を観に行く。レオナルド・ダ・ヴィンチ「受胎告知」(1473)の本邦初公開ということで、話題を集め、行列ができている展覧会である。もともと行くつもりはなかったのだが、次女が行きたいと言ったのと、国立博物館の平常展で横山大観「無我」の展示が今週から始まったのとで、上野まで出かける気になったのである。

多摩急行で根津まで行き、下町風情の残る池之端の街並みを抜けて国立博物館へ行く。券売所には、「レオナルド・ダ・ヴィンチ50分待ち」の表示が出ていた。本館の前から始まる行列最後尾につく。東洋館の庇の下に入るまでは炎天下に並ぶことになり、いい日向ぼっこができた。結局、第1会場の本館1階に辿り着くまで45分かかった。ヒマなことである。

金属探知機や手荷物検査が物々しい保安検査場を抜けて特別第5室に入ると、いきなり、「受胎告知」が展示されている。薄暗い室内に蛇行するスロープが作られ、じりじり歩きながら鑑賞してくれ、という趣向だ。予想通り、作品は大きくない(104*217cm)。20歳代前半の作、という点では天才的なのかもしれないが、若描きの稚拙さの目立つ絵だ。45分間の時間資源を投下してまで観る価値があるかというと、些か疑問である。高級イタリア料理店で、45分待たされた後、いきなり大皿に乗った小さな主菜が出され、しかも「店内が込み合っておりますので、1分以内にお召し上がり下さい。前菜は、隣の部屋でお出ししますので、そちらへどうぞ。」と言われたような気分のまま、特別5室を後にする。

続いて、第2会場の平成館へ移動する。こちらは、模型、複製、映像などを駆使してダ・ヴィンチの天才を多面的に紹介しようという展示である。実物展示は、「伝」レオナルド・ダ・ヴィンチの「少年キリスト像」のみ、という大胆さだ。結局、この展覧会における、制作者・著者が明らかな原作・原本は、「受胎告知」だけということになる。児童科学館の展示物のようなものを見て歩く気も起こらず、早々に会場を後にした。

都合がつかなくて、この展覧会を見逃した方は、よほどのダ・ヴィンチ愛好家でない限り、特に悔やむ必要はないと思う。「受胎告知」が帰国した頃合いを見計らって、ウフィッツィ美術館へ行けばよい。本作だけではなく、イタリア・ルネンサンス期の名作の数々も鑑賞できる。要は、時間的・金銭的にその気になるかどうかだけの問題だ。