藤田嗣治展

東京国立近代博物館で開催中の「藤田嗣治展」を観る。観覧券を買ってから入場待ちの行列に並ぶ。10分ほどで入場できたが、館内も混雑している。藤田嗣治の没後*1初めての本格的な回顧展だけのことはある。私も、藤田嗣治の作品を系統的に観るのは初めてだ。作品が年代順に展示されているので、画風の変遷が理解しやすい。

変化が最も顕著なのは、キリストの十字架降架という同じ主題を扱った「十字架降下」(1927)と「キリスト降架」(1959)だ。前者は、日本画の様式を色濃く残しているが、画家がカトリックの洗礼を受けた年に制作された後者は、日本の伝統と訣別したことを窺わせる。上部のアーチの障壁画風の表現に、僅かに痕跡を留めるのみだ。

圧巻は、5点の戦争画だ。そのうち、「アッツ島玉砕」(1943)、「血戦ガダルカナル」(1944)、「サイパン島同胞臣節を全うす」(1945)の3点は、帝国陸海軍が降伏・投降を潔しとせずに玉砕した戦地の模様を描いたものだ。戦意高揚感は微塵も感じられず、いずれも「黙示録」三部作(1960年)に通ずる地獄絵である。戦後、これらの作品の制作を理由に軍国主義への協調を非難されたのは、皮肉としか言いようがない。

娘たちは退屈したようだ。まあ、藤田嗣治特有の非現実感漂うデカダンスを小中学生に理解しろと言っても、無理な相談だろう。

*1:1968年1月29日逝去。享年81歳。今年は、藤田嗣治の生誕120年に当たる。