N響の第九
我が家の年末恒例行事となった第九を聴きに、家族でNHKホールへ出かけます。今年は、レナード・スラトキン指揮のNHK交響楽団です。N響の第九は、1999年の準・メルクル指揮以来9年ぶりです。
スラトキンは、セントルイス交響楽団の音楽監督時代に愛聴した指揮者です。1990年と1995年の同楽団との来日公演も聴きに行き、特に1995年3月2日のマーラー第5交響曲は、首席トランペット奏者のスーザン・スローターの強烈な独奏とともに、記憶に残る名演でした。彼の実演を聴くのは久しぶりです。
座席は2階左翼席の後方なので、音響・視覚ともにあまりよくありません。音響の劣悪さにかけては首都圏屈指のNHKホールは、2階席中央前部以外は軒並みダメですから、そこの席が取れなかった時点で勝負あったというべきです。
演目は、第九1曲だけなので、いきなり始まります。弦をさやさや鳴らす一方、木管やホルンを際立たせて、何だか変わった演奏です。特別な版を使っているのか*1、スラトキンの解釈なのか、判然としません。N響は、例によって、いかにも仕事でやってます、という覇気のない演奏で、スラトキンの指揮が空回りしている印象です。1・2・3楽章とも感興が乗らないまま、終楽章を迎えました。独唱が入ってからは、「今年は外れだな。」と確信しました。特にテノール(ウォルター・ブランデ)は、「何でこんな歌唱を聞かせるために、わざわざ外国から呼んだのだ。」と主催者を詰問したくなるほどの出来です。*2唯一頑張ったのは、国立音楽大学の学生合唱でした。このつまらない演奏に大枚はたいたかと思うと(家族4人ですから、被害も4倍です)、拍手をする気も起きないほどでした。*3
しかし、四半世紀以上、年末の第九を聴き続けてきた経験からすると、本当に感動するのは3回に1回くらいの割合で、あとは、まあまあか、今日のようにちっとも感動しないかのいずれかです。合唱で賑やかに盛り上がれば万事めでたし、というほど甘い曲ではないということです。あとは、師走という特殊な時期ですから、そのときの自分の心理状態の要素も大きく、「今年は頑張ったなあ。」とか「今年はいろいろあったなあ。」としみじみしているときほど感動しやすい、という傾向はあります。その意味で、泣くほど感動した昨年とは、私の心境も違っていたのでしょう。長女も、「去年ほどじゃなかったね。」と不満そうでした。