「スカイ・クロラ」

夜、新宿三丁目の「新宿バルト9」で映画「スカイ・クロラ」を観ました。

期待通り、いい映画でした。何より、原作の雰囲気に忠実でありながら、押井守監督独自の美意識に裏打ちされた世界観を提示することに成功しています。原作通り、地上のキルドレたちは、人形のように精気を欠いている一方、空中戦の描写は実写かと見まがうほどのリアルさです。撃鉄を起こしたヴァルターPPKを握ったまま、草薙が函南にキスする場面に漂う切なさ、やるせなさと、フルCGであるがゆえに、これまでの戦争映画のあらゆる空戦場面を凌ぐ迫真的描写が同居する不思議な映画になっています。

無論、原作と同様、それほど深いテーマを扱っているわけではありません。その意味では、ネットと脳神経、生物と非生物のそれぞれの境界の曖昧さを描き出していた「攻殻機動隊」「イノセンス」の方が、見応えがあったと言えるでしょう。しかし、日本のアニメーションでしか提示できない主題・表現を追求している押井監督の姿勢には、強い共感と期待を覚えます。

内容的に唯一不満があるとすれば、草薙の人物設定でしょうか。私は、もっと毅然とした指揮官のイメージを彼女に持っています。しかし、草薙が「ティーチャ」に拘る理由は何なのか、それを知るためには、5部作を作中時系列の順に「ナ・バ・テア」から読んでみる必要がありそうです。
ナ・バ・テア (中公文庫)