「それでもボクはやっていない」 困った映画

遅ればせながら、話題の映画のDVDを観ました。ちょっと困った映画だと思います。確かに、痴漢冤罪は、満員電車に乗って通勤・通学せざるを得ない都市部の男性にとっては由々しい問題です。私も、満員電車に乗るときは、女性の近傍は可能な限り避け、かつ両手で本を持つなどして、決して両手を自分の胸から下におろさないようにしています。たとえ冤罪でも、痴漢容疑で逮捕されたら、犯行を認めたうえで被害者と和解しない限り、かなりの確率で起訴され、そうなったら最後、有罪率99.9%というのは恐ろしいことです。

とは言え、この映画は、痴漢冤罪を糾弾するだけに留まらず、日本の刑事裁判制度そのものに欠陥があるかのような描き方をしています。有罪率99.9%という数字も、あたかも冤罪率99.9%であるかのように錯覚させます。もちろん、人間が人間を裁く以上、事実認定・法令適用いずれも無謬ではありません。しかし、厳格な手続法とその運用によって、一定以上の信頼度は達成している(からこそ、刑事事件解決に対する一定の社会的信頼がある)わけです。それが根本的な問題を抱えているかのように描くのは、何ともアナーキーな製作態度だなあと思います。

映画としても面白くありません。最初から「この青年は真っ白白ですよ。なんて可哀想なんでしょう。」という視点で描かれているので、観る側に「でも、ひょっとしたら、クロなのでは。」という疑念が生じる余地がほとんどないのです。これでは、予想通りの結末を迎えても、余韻が残りません。日頃経験することのない(できれば、この先も経験せずに済ませたい)警察・検察での取り調べや、留置場での生活を疑似体験させてくださったことには、感謝します。しかし、わざわざ映画館に観に行かなくてよかったな、というのが正直な感想です。
それでもボクはやってない スタンダード・エディション [DVD]