タンホイザー まずまずの上演
初台で「タンホイザー」を聴いてきました。若杉弘芸術監督就任第一作と銘打っていますが、若杉弘が指揮をするわけではなく*1、フランス人のフィリップ・オーギャンの指揮です。
全般的に水準の高い公演でした。標題役のアルベルト・ボンネマは、健康上の理由で降板したヴォルフガング・ミルグラムの代役。ネット上では評判が悪いようですが、煩悩と悔悟に疲弊しきった「破戒」騎士を好演したと思います。何しろ、タンホイザーは、ヴァーグナーのオペラ中、最も惨めで格好悪い主役なのですから、役柄を弁えた解釈でしょう。
ヴェーヌスのリンダ・ワトソン*2、エリーザベトのリカルダ・メルベート、ヘルマンのハンス・チャマー、ヴォルフラムのマーティン・ガントナー、いずれも安定した歌唱と演技で、ヴァーグナーを堪能させてくれました。牧童の吉原圭子は新しい発見でした。今後が楽しみです。
オーギャン指揮の東京フィルは、どちらかと言うとまろやかな響きで鳴っていました。私の好みからすると、もう少しゴリゴリ・バリバリしてくれた方がいいのですが、一応及第点でしょう。
唯一、不満があるとすれば、舞台装置でしょうか。ガラスや金属の質感の柱を何本も立てて、照明や映像と組み合わせることによって、ヴェーヌスの洞窟やヴァルトブルクの殿堂やチューリンゲンの森を表現していましたが、手抜きと言われても仕方ありません。もう少し、金をかけて具象的にやってもらいたいものです。
若干の不満はあるものの、久しぶりにヴァーグナーのオペラを満喫し、ヴァグネリアンの妻は大喜びでした。「タンホイザー」はきれいに3幕にまとまり、音楽もすばらしく、楽しめる作品です。