「絵本太功記」床本読了

「絵本太功記」の床本を読了した。聞きしに勝る重厚な物語で、これを一日ぶっ通しで観るのは、結構きつそうだ。中でも圧巻は、やはり「太十」と呼ばれる六月十日「尼ヶ崎の段」だ。出陣前の祝言、夫婦の別離、親殺し、子・夫の死等、人生の悲劇が凝縮されている。誤って手にかけた母に「逆賊非道」と呪詛され、戦傷を負った息子には先立たれ、それでもなお真柴久吉(豊臣秀吉)と厳しく対峙する武智光秀(明智光秀)の姿が凄絶だ。嶋大夫・清介、十九大夫・富助の浄瑠璃が楽しみである。

床本を読む限り、最後の大詰「大徳寺焼香の段」は、後世の補遺だけあって、やや取ってつけた感がある。これを上演するのであれば、武智光秀が自害する六月十三日を上演してほしかったところだ。彼の最期を見届けないと、この悲劇の武将の物語が完結しない気がする*1

*1:「尼ヶ崎の段」の幕切れを読むと、本作の主人公は真柴久吉なのではないか、という気もしてくる。そう言えば、標題は、「絵本太功(閤)記」だった。