歌劇「ダフネ」

東京文化会館シュトラウスの歌劇「ダフネ」の日本初演公演を観る。シュトラウス後期の充実した作品だが、欧米でもあまり舞台にかからないようだ。内容は、平たく言えば、デュオニソスの宴に降臨してきた太陽神アポロが樹木を愛でる娘ダフネに一目惚れするが、袖にされ、恋敵ロイキッポスを殺害したあげく、自らの暴挙を反省して、ダフネを月桂樹の木に変容させる(あまり反省していないようだが)、という物語である。シュトラウスの音楽は、「クリスタルナハト」の1ケ月足らず前に初演されたとは思えないほど、緊迫した世相とは裏腹に、長調主体で明るく美しい。

本日の公演では、何と言っても、題名役の釜洞祐子が素晴らしい。全曲を通して、ほとんど歌いっ放しにも関わらず、ロイキッポスを殺害された後の長大な嘆きのアリアを見事に歌い切った。2004年の「インテルメッツォ」のクリスティーネもよかったが、今日は、シュトラウス歌手としての適性を確信させてくれた。元帥夫人を目指して大成を期待したい。
http://d.hatena.ne.jp/Wilm/20040719

アポロの福井敬も悪かろうはずはないが、この歌手であれば、もっと輝かしい歌唱が聴けたかもしれない。ロイキッポス・樋口達哉も頑張ったと言えるだろう。ダフネの両親のペナイオス・池田直樹とゲーア・板波利加は、いずれも曲が要求する広大な音域に対応し切れていなかった感がある。

若杉弘指揮の東京フィルハーモニーは、終始安定した演奏を聴かせる。こうやって聴くと、若杉の音楽性に最も合っている作曲家は、やはりシュトラウスのようだ。初台でどんどん採り上げてもらいたいものだ。まずは、「影のない女」を期待したい。

本日の公演の唯一最大の問題は、大島早紀子の演出だ。背景に音楽と関係ないものを持ち込みすぎる。その最たるものが、自ら主催する舞踏団の導入だ。熱演したダンサー諸氏には気の毒だが、目障り以外の何物でもなかった。ダフネが月桂樹に変容していく静かな幕切れに、およそ楽想を無視した激しい踊りを展開することに何の意味があるのか。あまりの見苦しさに目をつぶって音楽のみに没入しようと試みたが、終幕の感興がそがれたのは、まことに遺憾だ。1999年の「トゥーランドット」の勅使河原三郎といい、舞踏家のオペラ演出は鬼門だ。

やはり、長女はよく理解できなかったようだが、舞台上の歌手や踊り手を双眼鏡で追って、退屈はしなかったようだ。寝込まなければ合格だ。

これで、上演を観ていないシュトラウスのオペラは、「グントラム」「火の欠乏」「影のない女」「平和の日」の4作品を残すのみとなった。ヴァーグナーは、最後に残った「妖精」を、期待通り東京オペラプロデュースが来春上演*1するようなので、ようやく全曲制覇の目処が立ったが、シュトラウスはいつの日になることやら。
http://d.hatena.ne.jp/Wilm/20060122

新宿で長女と食事をしてから帰宅する。

*1:当然、日本初演である。