くるみ割り人形

今日は、家族で「くるみ割り人形」のバレエ公演を観に出かける。場所は、五反田のゆうぽうと簡易保険ホールである。結婚してからしばらくの間、欧米の慣習に倣って、年末に夫婦で「くるみ割り人形」を観に行くのを恒例にしていた。しかし、長女が幼稚園の頃、大奮発してレーニングラード国立バレエの来日公演に連れて行ったところ、およそ興味を示さず、寝通しだったのに懲りて、すっかり足が遠のいてしまった。今年から次女がバレエを始めたので、再開を試みる。

牧阿佐美バレヱ団の演出や振付はオーソドックスなもので、安心して観ていることができた。しかし、ソロ・群舞ともに、目も覚めるような舞踊が展開されたというほどでもない。主役級の踊り手も回転の軸が定まらなかったりして、少々はらはらする。子供が多く出演するので、発表会のような雰囲気が漂ってしまうのも今一つだ。

問題なのは、管弦楽である。デイヴィッド・ガルフォースというイギリス人の指揮者は、ヨーロッパの主要歌劇場の専属バレエ団で活躍しているようだが、正確なメトロノーム以外、一切眼中にないようだ。こういう指揮だと、踊り手は助かるかもしれないが、音楽的な霊感に乏しい音楽を聴かされる方はたまったものではない。「くるみ割り人形」は、三大バレエに限らず、チャイコフスキーの音楽の中でも屈指の美しい曲が目白押しなのだ。文字通り聴衆に背を向け、ひたすら「劇伴音楽」に終始する姿勢には憤りすら覚えた。

カーテンコールで、ワゴンに積んだ菓子袋を客席に向かって放り投げ始めたのも興醒めだった。あちこちで争奪戦が始まる。子供の頃、近所で住宅建築の棟上式があるといそいそと出かけていき、2階から菓子の入ったおひねりを投げてもらったのを思い出した。

結局、ちゃんとした「くるみ割り人形」の公演を観たければ、初台に行くか、ロシアのバレエ団の来日公演に行った方がよいということを再認識したのであった。終了後、長女に感想を尋ねると、言下に「つまらなかった。文楽の方がいい。」と予想通りの反応。敗者復活戦は不調に終わったようだ。バレエ公演を初めて観る次女は「よかった。」と満更でもなさそうだった。8月に自分が踊った舞台で展開されるプロの公演にそれなりの感銘を受けたようだ。ふたりの個性がよく現れていて、面白かった。