「義経千本桜」

今日は、国立劇場文楽を観に行く日である。出し物は「義経千本桜」。長女は、中学校の課外授業で「文楽鑑賞教室」を観るため、一足先に出かけていった。15時過ぎに、妻・次女といっしょに家を出る。

「伊達娘恋緋鹿子」と「恋女房染分手綱」の世話物2本を観終えたばかりの長女と国立劇場小劇場のロビーで落ち合う。娘たち用のイアホン・ガイドを借りたり、弁当を買ったりしているうちに、16:45になり、「幕開き三番叟」が始まる。場内は、外国人の姿が多い。

17時ちょうどに開演。初段「堀川御所の段」。奥を務めるのが呂勢大夫と燕三。義経(玉也)は、川越太郎(勘十郎)が伝える頼朝の嫌疑に対し、次々と申し開きをしていくが、平時忠の養女である卿の君(玉英)を妻としていることを追及されるや、卿の君はその場で自害を図る。卿の君の実父である川越が介錯し、首を刎ねる。忠義のためには、子殺しも厭わない凄絶さだ。しかし、弁慶(玉志)が頼朝差回しの討手・土佐坊(玉勢)を殺害し、卿の君の自己犠牲も無駄に終わる非条理。土佐坊の首も飛び、血生臭い段である。

25分の休憩の間に弁当の夕食。

二段目「伏見稲荷の段」。義経が弁慶を赦し、後を追ってきた静御前(勘也)に初音の鼓を与える。親狐の皮で作られた初音の鼓を追ってきた子狐の化身・佐藤忠信(簑二郎)が哀れだ。

三段目「渡海屋・大物浦の段」。いよいよ平知盛(玉女)登場。義経への暗い復讐心をたぎらせる知盛を玉女が力演する。典侍局(和生)と安徳天皇(玉誉)が入水を覚悟し、磯へ進む場面は、さながら葬送行進のようだ。義経安徳天皇の擁護を誓うと、安堵した典侍局は自害する。恩讐の念も失せた知盛は、一人沖に漕ぎ出す。大岩によじ登って碇綱を体に巻きつけ、「三途の海の瀬踏みせん。」と叫ぶや、高々と掲げた碇を海に投じる。碇に引きずられ、両足を天に突き挙げたまま、仰向けに海に没していく。平家一門の悲劇的最期である。奥は千歳大夫と清介。心を打つ義太夫節だった。

今日もすばらしい公演だった。これで、文楽時代物の三大名作「仮名手本忠臣蔵」「菅原伝授手習鑑」「義経千本桜」の代表的な段を観たことになるが、完全に嵌った。2公演を立て続けに観た長女は、疲れも見せず「文楽の人たちは、太夫も三味線も人形遣いも、みんな格好いいね。」とはしゃいでいる。予想通り、「パパ、世話物見たことある?ないの?いいよー。」と自慢された。これから、長女と二人で小屋通いをすることになりそうだ。新たな趣味が加わった。ということで、カテゴリに「文楽」を新設することにした。