On Your Mark

一昨日amazonから届いた「ハウルの動く城+ジブリがいっぱいSPECIALショートショートBOX」のうち、「ショートショート」の方を観る。これを買ったのは大正解だった。近藤喜文演出の「そらいろのたね」、「金曜ロードショー」のオープニング、TVCM「おうちで食べよう。」シリーズ、「どれどれの唄」プロモーションビデオ等々、ジブリファンを自認する人(かく申す私もそうだが)なら見逃せない映像がてんこ盛りだ。何より素晴らしいのが、「On Your Mark」。実は、これほしさに、わざわざ「ハウルの動く城」との2本組を買ったのである。ジブリの劇場公開作品で観ていないのは、本作だけだったので、ようやく念願がかなった。

わずか6分48秒の作品だが、解説にも書かれている通り、複数の結末が描かれているので、さまざまな解釈の余地がある(以降はネタバレなので、これから本作を観る方は、お読みにならないことをお勧めする)。

  1. 宗教団体「聖NOVA’S CHURCH」*1の本部を警察機動隊が急襲し、*2捕われていた地球外生命体(天使)を救出する。天使を確保した機動隊員(チャゲ&飛鳥)がその美しさに打たれ、収容施設から天使を奪取し、逃走の果てに、廃棄原子力発電所が点在する原子野に天使を放つ。
  2. 宗教団体本部急襲の過程で、機動隊員(チャゲ)が殉職する。以降、生き残った機動隊員(飛鳥)と殉職機動隊員の思念体の協働で天使を救出する。
  3. 宗教団体本部急襲の過程で、2名の機動隊員が殉職する。以降は、ふたりの思念体による行動。
  4. 宗教団体本部の急襲は、無実の信者の大量虐殺に終わる。若い女性信者の死体(天使)を見てショックを受けた機動隊員が天使救出の幻覚を見る。

素直な解釈は1だろう。このシナリオの分岐は2箇所あり、(1)高速道路からトラクタが転落して救出に失敗するか、またはジェット噴射で切り抜けて原子野にたどりつくか、そして(2)天使を放った後、ふたりは生き残るか、または残留放射線障害で死ぬか、である(ラストの鳥瞰はいずれの可能性も示唆する)。

しかし、私は2〜4のシナリオの可能性を考える。天使発見の場面で、機動隊員が幽霊のようにフェイドインで登場するからだ。2・3も捨てがたいのだが、思念体が現実世界を動かすことはできないので、*3いずれも無理があるだろう。とすれば、4が最も自然だ。この解釈を採ったとしても、チェルノブイリの石棺を想起させる巨大な建物*4の前で機動隊員が天使を放ち、天使が空高く昇っていく場面は、十分感動的だ。
ジブリがいっぱいSPECIALショートショート [DVD]  風の谷のナウシカ 全7巻箱入りセット「トルメキア戦役バージョン」

*1:風の谷のナウシカ」(原作)に登場する土鬼を思わせる意匠だ。

*2:宗教団体側にどのような帰責事由があるにせよ、法執行機関がいきなり建物を破壊して侵入し、警告なしに発砲を始めるのは、些か問題があるだろう。

*3:私の好きな映画「シックス・センス」はこの世界観に拠っている。

*4:前景に写る警告板はロシア語で書かれている。