韓国出張

今日から1泊2日の韓国出張だ。恥ずかしながら、この歳になって初めて、日本に一番近い隣国*1を訪ねる。6時起床。昨夜は、深夜帰宅してから出張準備をしたので、4時就寝だった。2時間しか寝ていない。猛烈に眠い。出張準備は先週末にすませておくべきだったが、後悔先に立たず、だ(後悔後を絶たず、か)。

南武線で川崎まで行き、羽田空港行きの京浜急行に乗り換える。今日は、羽田出発なのである。海外出張で羽田空港を利用するのは初めてだが、羽田は近いので助かる。北米路線も発着してほしいものだ。第2ターミナルからターミナル接続バスに乗り、国際線ターミナルに行く。立派な名前とは裏腹に、こぢんまりした建物だ。韓国から初めて日本に来た人は、これが日本の玄関口かと愕然とすることだろう。内部も地方空港のような慎ましい風情である。自動チェックインをすませ、安全検査、出国審査を終える。出国してから、携帯電話を借りるのを忘れたのに気づいたが、手遅れだ。M1000が韓国でも使えることを期待しよう。

待合室(文字通り、そういう雰囲気である)は、先行するJL8831便の乗客でごったがえしていたが、搭乗が終わるとNH1291便の乗客だけになり、少し落ち着いた。2番ゲートに駐機しているのはJA8362(B767-381ER)。全日空の国際線用B767フリートの中では、JA8286に次ぐ古株だ(1989年10月就航)。社名表示は「全日空」。オールニッポン機材として運用されることもあるのか、機首にANKのロゴも表示されている。

機材準備が遅れ、9時頃から金浦行きNH1219便の搭乗開始。座席は31A。主翼直後の席で、視界の3分の2を主翼が占める。機内は満席だ。定刻より約10分遅れて9:24スポットアウト。第1ターミナルからやってきた日本航空のJA8907(B747-446D)に後続して、一番端のC1から34Rに入る。9:37離陸。近距離の中型機なので、あっと言う間に舞い上がる。

東京湾の海岸線に沿って右旋回していくので、眼下に若洲ゴルフリンクス東京ディズニーランド幕張メッセJFE千葉製鉄所、東京電力五井火力発電所新日鉄君津製鉄所などが次々と見える。木更津VOR/DMEから東京湾を横切り、横浜ベイブリッジやみなとみらいの真上を通過する。江ノ島の奥にうっすらと大島が浮かんでいる。丹沢山塊の向こうに雪を頂いた富士山がきれいな二等辺三角形を描いていると思ったとたん、雲の中に入った。かなり揺れる。ようやく雲上に出たら、見渡す限りの雲海だ。以降、機窓の景色は、主翼と白い雲と青い空だけで、ほとんど静止画のようだ。つまらないので、うとうとする。

10:20頃から食事のサービスが始まる。Yクラスはランチボックスが配られる。中身はサンドイッチと雉焼き弁当だ。お世辞にもおいしいとは言いがたい。食事中に「FL380で飛行中。」という機長のアナウンスがある。食後はブログを書く。

着陸態勢に入って雲の下に出てから、ようやく下界が見えた。これまで中国出張の帰途、韓国の夜景を見たことはあるが、地上の景色をつぶさに見るのは初めてだ。日本とよく似た景色だ。違いと言えば、ドミノのような高層マンションが林立していることくらいか。山の上をかすめるように降下していく。「金浦国際空港は、上空および空港内での写真撮影は禁止されています。」との機内放送がある。

11:53金浦国際空港14Lに着陸。正午に36番ゲートにスポットインした。日本航空のJA8911(B747-446)が隣のゲートを離れるところだった。先行したJL8831便がJL8832便として折り返すところらしい。

初めて韓国に降り立つ。入国審査は、アメリカのように指紋採取や顔写真撮影があるわけでなく、中国のように威圧的でもなく、穏やかな感じだ。2006年2月9日までの査証が発給される。明日帰るのだが。

入国後さっそくM1000の電源を投入する。G3端末は、ちゃんとネットワークを認識する。同行者のローミング端末との間で問題なく送受話できる。これは便利だ。仕事で多用しないなら、これで十分だ。

ターミナル内をK1A1軽機関銃*2を携行した警察官が二人一組で巡回している。赤いベレー帽をかぶっているので、テロ対策の警察特攻隊(KP-SWAT)だろう。ここから板門店まで直線距離で約50kmであることを思い出す。*3戸外に出てみると、気温摂氏9度で、けっこう肌寒い。

タクシーに乗って仕事先に行く。漢江沿いの高速道路を走っていると、川岸の方は鉄条網が二重に張ってある。路側帯で野菜を売っている軽トラックの横に、M113装甲兵員輸送車が停まっている。迷彩塗装した監視塔が一定間隔で立っており、機関銃で武装した兵士が立っているものもある。漢江の河口は北朝鮮との国境だから、明らかに、侵攻に対する防衛措置だろう。そう思って見ると、河岸から数百m離れたところに林立している高層マンション群は、防壁のようだ。鉄条網・高速道路の河岸防衛線が破られたら、そこで阻止しようということではないか。韓国は、体制を異にする国家と国境を接している臨戦国家であることを実感させる。この緊張感は、海が四周の日本人には理解しにくいところだ。

最初の仕事先からソウル市内へタクシーで移動する。やはり漢江沿いに走る。金色に輝く大韓生命63ビルや南山の頂上のソウルタワーが見える。市内に入ると、目抜き通りは片側5車線だ。大都会である。突然の車線変更は結構あるが、北京のように警笛の応酬合戦になることもなく、整然としたものだ。ところで、運転手のおじさん、さっきから、窓を開けて他のタクシーの運転手に挨拶したり、大声で携帯電話で話したりしているが、できれば運転に専念していただきたい。

仕事が終わると、タクシーでホテルに向かう。5車線が全部車で埋まり、たいへんな渋滞である。ほかのタクシーを見ていると、話に聞いていた通り、男性は助手席に、女性は後部座席に座っている。街行く人々は、みな早足で活気を感じる。結局、空いていれば5分の距離に30分以上もかかったが、市内観察はよくできた。

今日の宿は、江南区ベストウェスタン江南だ。もとは、別のホテルだったのをベストウェスタンが買収して改修したらしく、きれいな内装だ。あてがわれた1105号室は、アメリカのホテルよりは狭いものの、日本のビジネスホテルよりははるかに広くて快適だ。窓からは、ソウル中心街方向の夜景が見える。ソウルタワーがライトアップされている。さっそく、ノートPCをダイアルアップ接続すると、ちゃんとメールが取れた。このあたりも北京や上海と違うところだ。

19:30に取引先のNさんがホテルに迎えに来る。Nさんは、韓国人男性と結婚してソウルで働いている日本人女性だ。ホテルから歩いて10分ほどのところにある焼肉料理店に案内してくださる。日本語のメニューがない店なので、地元の人に案内してもらわないと、来られないだろう。さすが本場物とうならずにはいられないセンカルビやプルコギを食べ、薬酒を飲みながら、韓国事情を伺う。曰く、

  • 長幼の序を重んじ、年長者の前で年少者が飲食・喫煙する場合は横を向く。
  • 道で肩が触れても、年長者は詫びなくてよい。
  • あまり古いものを尊ばず、先取の気風が強い。
  • ソウルで不動産価値が高いのは一戸建てではなく、マンション。
  • 地縁・血縁は強いが、会社に対する帰属意識は希薄で転職も多い。
  • 日本のテレビ番組は、NHK国際放送以外は受信できないが、放送後数時間以内に韓国語の字幕付きでネットに流れる。

等々。

22時半頃、ホテルに戻る。風呂にも入らず、歯だけ磨いてベッドに倒れこむ。

*1:全日空機内誌「翼の王国」の国際路線区間距離表によると、東京-ソウルは1,221km。東京-シアトル7,685kmの1/6以下だ。

*2:大宇製。韓国陸軍の制式火器として採用されている国産機関銃である。

*3:東京に当てはめると、熊谷のあたりに非武装地帯があることになる。