ヴェネツィア・オペラ

今日は久しぶりのオペラだ。娘たちは、もう二人だけで留守番できるようになった。「いいかい、誰が来ても玄関のドアを開けるんじゃないよ。」と7匹の仔ヤギのお母さんのようなことを言い残して妻と出かける。二期会の公演だが、場所は初台。フィレンツェ所縁のオペラ2本立てである。

1曲目は、ツェムリンスキーの「フィレンツェの悲劇」。当然初見である。カロリーネ・グルーバーの演出は、倒錯的な性描写を狙ったものだが*1、それを善男善女の集う小屋の興行でやるのは、かなり無理があるだろう。この一線は踏み外していません、という自己抑制を感じさせてしまう。歌手たちも頑張ったが、相当やりにくかったろう。

2曲目は、プッチーニの「ジャンニ・スキッキ」。幕開け早々、「フィレンツェ」の登場人物たちが現れ、おや、と思わせるが、鮮やかに舞台転換した。深刻な愛憎劇から、スラプスティックな下世話噺に一変する。こちらは、理屈ぬきに楽しめた。蓮井求道は、下品にならずにスキッキのいい加減さを好演した。チェスカを歌った池田香織は、私が将来を嘱望している若手歌手のひとりだが、歌唱・演技とも秀逸だった。篠木幸寿のグィード/ブォーゾの物言わぬ熱演(死体の役だから当然である)も特筆に値する。しかし、プッチーニはいい。甘美で豪奢な響きは、劇場音楽そのものだ。

指揮者のアルミンクは、ようやく実演に接する機会を得た。なかなか才能のある指揮者と見た。今度はオーケストラの演奏会を聴いてみよう。

2匹の仔ヤギは、家でおとなしく親ヤギの帰りを待っていた。

*1:何日か前に、その旨の予告の葉書が送られてきた。