椿姫

「椿姫」は、主人公が坂道を転がるように不幸せになっていく物語なので、正直、それほど好きなオペラではない。しかし、若杉弘の指揮なので、観に行くことにした。初台のロビーには大きなクリスマス・ツリーが飾ってあり、年の瀬を感じさせる。のんびりオペラを観ている場合ではないような気もする。

あまり冒険をしない初台ゆえ、予想通り、演出・演奏とも中庸を得たものだった。ルーカ・ロンコーニの演出は写実的で、奇抜な仕掛けは何もない(第1幕で群集のストップモーションを使ったくらいか)。タイトルロールのマリーナ・ヴィスクヴォルキナは、やや癖のある歌と演技だが、ヴィオレッタは高級娼婦なのだから、これくらいでいいのだろう。佐野成宏は、誠実なような不誠実なようなどっちつかずのアルフレードを好演した。若杉指揮の東フィルは、繊細な演奏を聴かせた。さすが、日本屈指のオペラ・オーケストラだけあって心得たものだ。

これらの道具立ては、女性を感情移入させるには十分だったらしく、第3幕では、あちこちからすすり泣きが聞こえた。「パトロンに捨てられた娼婦が結核で死ぬ。」と要約すると身も蓋もない物語なのだが。

これで、さすがに今年のオペラも終わりだ。「エジプトのヘレナ」「カプリッチオ」「神々の黄昏」「インテルメッツォ」「ドン・ジョヴァンニ」「ラ・ボエーム」「エレクトラ」「椿姫」と8本も観て、年間回数の新記録である(前回の「エレクトラ」で記録更新だった)。シュトラウスを4本観ることができたのは大収穫だった。一番よかったのは、何と言っても「神々の黄昏」だ。来年は、反動で数は少なくなるだろう。
http://d.hatena.ne.jp/Wilm/20040401