芸術家たちの眼差し

夕べの雨に洗い流されて、きれいに晴れあがった。

10時半頃チェックアウトし、Nさんとの別れを惜しみつつ、Bird Landを後にする。今日の最初の目的地はGlass Fish。ガラス工芸家・大場匠氏の工房だ。子供たちの吹きガラスの体験制作を申し込んである。ほとんど大場氏に作っていただいているようなものだが、子供たちにはいい経験だ。今年は、3人とも一番難しい皿に挑戦。ジャンケンの結果、長女・Kちゃん・次女の順に取り組む。子供の手を介しながら高温物を取り扱ううえ、それなりの作品に仕上げなければならないのだから、大場氏の眼は真剣そのものだ。1時間後に、3枚のガラス皿が冷却炉に無事収まった。

子供たちが順番に制作に取り組んでいる最中に、Bird LandのNさんがやってきた。陶芸家・浅井純介氏の窯・海山窯に案内してくださるという。わざわざ浅井氏の時間を取ってくださったようだ。制作完了後、N氏の車に先導されて、海山窯に向かう。竹藪の中の古い民家を改築した海山窯に到着。浅井氏が出迎えてくださる。氏の作品には、Bird LandのAsh & Crayギャラリーで接しているし、小鉢と湯呑がうちにもあるが、ご本人にお目にかかるとなると緊張する。奥様が淹れてくださった紅茶を飲みながらお話を伺う。目尻には深い笑い皺があるが、眼はやはり芸術家のそれだ。一道を極めた人の眼は違うな、と思う。客間に並べられた作品の中で、織部の茶碗が気に入った。母の傘寿祝いにしようと思い立ち、お願いして分けていただく。

海山窯を辞し、Nさんと別れてから、Sand Caféに行く。ゆったりした時間が流れている定番の訪問先だ。ここは何を食べてもおいしい。今回は、これもかねてから気になっていたサザエカレーにする。ちょっと病みつきになりそうな味だ。

410号が渋滞しているので、192号→410号と裏道をたどり、日が傾きかける頃、館山ファミリーパークに着く。入場するや、子供たちは、遊具の方へ走り去って行った。ポピー畑を見ると、花はだいぶまばらになっている。午前中に採り尽くされたのか、もう季節が遅いのか。子供たちを遊具から連れ戻して、ポピーとストックを摘ませる。花摘みが終わった後、向かいの平砂浦の海岸に行く。防砂林を抜けると、きれいな砂浜が広がり、太平洋の荒波が打ち寄せている。今日は、空気が澄んでいるらしく、富士山、伊豆半島天城山、大島、利島がくっきり見える。子供たちは、ゴム長靴に履き替えて波打ち際を走り回る。次女の長靴は、あっと言う間に水浸しになった。太陽が水平線近くになる頃、車に戻る。

子供たちはまだ遊び足りないらしく、ビーチグラス拾いがしたいというので、我が家の行きつけの猟場に行く。最近は、ビーチグラスも乱獲されているらしい。しかし、到着する頃には、日も沈み、手元もろくに見えなくなっていた。5分くらいで打ち止め。丸一日遊んだ千倉を後にし、和田町のすし将軍で夕食。19時過ぎに帰途につく。こんな時間までうろうろしている観光客もなく、道は空いている。Oさんの車を木更津北ICまで先導した後、先行する。東京湾アクアラインの橋から東京や横浜の灯が見える。海の向こうの現実世界だ。海ほたるは通過し、海底トンネルを走り抜ける。浮島JCTで一般道におりると石油化学コンビナートの真っ只中。千倉の花の残り香が漂う車内雰囲気から一気に現実に引き戻される。これも、「還俗」のために必要な「手続き」だ。多摩沿線道路を北上し、自宅に辿り着いたのは21時過ぎだった。

今回の千倉行きは、いくつか初体験があって面白かった。Café de vonのAさんや浅井氏との新たな出会いもあった。千倉では、土地のひとびととの交流があるので、帰るときの後ろ髪の引かれ具合がほかの旅行と全然違う。今日は格別、鬱だ。明日から、千倉の余韻に浸りながらがんばっていこう、と決意せずにはいられないのであった。