中華的不思議国探訪記(其弐)

今日はどんよりと曇り、底冷えがする。午前中は仕事。移動の車中から市内交通を眺めると、車と自転車と歩行者が交錯している。よく事故を起こさないものだと感心していると、タクシーが自転車と接触したらしく、運転手と自転車の持ち主が路上で口論している。自転車のフレームがぐにゃりと曲がっていた。車対車のトラブルもあちこちで見かけ、日常茶飯事のようだ。交通法規ですら遵法意識の希薄そうなこの国で、半世紀にわたって計画経済を曲がりなりにも維持したのは20世紀最大の奇跡だと思う。

自動車は、ドイツ車を多く見かける。一番多いのはフォルクスヴァーゲンのサンタナだ。「国民車」という商号が為政者のお気に召したらしい。次に多いのはフランス車で、タクシーの大部分がシトロエンだ。日本車はほとんど見かけない。バスは、何事もなく動くのが不思議なくらいの年代物がぶいぶい走っている、と思ったら、道端に1台擱座している。故障かガス欠か。いずれにせよ、乗っていた客は迷惑したに違いない。

通りには、既述のマクドナルドを始め、必勝客(ピザハット)、肯徳基(ケンタッキー)、寨百味(サブウェイ)、吉野家等々、外資系のファーストフード店をふつうに見かける。さすがに飲食店名には、語感をよくしようという努力の形跡が認められる(必敗客や背徳基では客足も遠のくだろう)。なかなか懐の深い社会主義経済である。デパートや集合店舗も多い。今回、王府井や前門のような繁華街に行く時間がなかったのが残念だ。

昼食は、現地法人の近くの江西省料理店に行く。日本人の目には、どれも中華料理屋にしか見えないのだが、○○省料理店、という形で多様化・差別化しているようだ。鴨のスープがおいしい。隣のテーブルにいるのは人民解放軍の兵士たちらしい。

オフィスのトイレに行ったとき、何気なく個室を覗いたら、あっと驚いた。何と、和式(いや中式)便器の金隠しがこっちを向いている。つまり、用を足す人はドアに向かってしゃがむことになる。それで、夕べの料理店の個室でトイレットペーパが取りにくかったことの疑問が一挙に氷解した。私のしゃがむ方向が間違っていたのだ。変な習慣だなあと思ったが、よくよく考えてみると、洋式もドアに向かって座るのだから、国際的に見れば、ドアに背を向けてしゃがみ込む日本人の方が変なのだろう。それでも珍しいので、思わず写真を撮ってしまった。

夕方、仕事が一段落し、外を見たら、いつの間にか雪になっており、街はうっすらと白くなっている。バンに乗って、市中へ海賊品調査に出かける。現地法人の中国人社員の案内で、鼓楼の近くの海賊品街に行く。海賊品の専門店とは言え、路地裏や地下というわけでもなく、表通りに堂々と面している。狭い店内には、ゲームソフトやキャラクターグッズの海賊版が溢れている。客の子供が「あれがほしい。」とか何とか泣いていたり、店のおばさんが炒飯を食べていたり、拍子抜けするほどあっけらかんとした光景だ。もっと怪しげな雰囲気で隠微にやってくれないと、知的財産権を侵害される方も立場がないだろう。この国の知財立国の夜明けは遠いと感じた。

夕食は、四川料理店に行く。ウェイターが紐で束ねた緑色の上海蟹を見せてくれる。調理されて運ばれてきたときには、棘油の中で真っ赤に煮込まれていた。鶏肉の炒め物も、文字通り唐辛子の山の中に埋もれている。たいていの料理が赤黒く、いずれもおそろしく辛い、というか痛い。山椒も利いているので、唇や舌がちょっとびりびりする感じだ。しかし、ただ辛いのではなく、味にコクがあっておいしい。昨日よりも上物の白酒を飲む。独特の香りが立つ。

ニ次会と称して皆で現地法人のK氏のマンションに行く。2時過ぎまで酒盛り。まだ雪が舞う中、流しのタクシーを拾ってホテルに戻る。お腹をこわさないように、漢方胃腸薬を飲む。何だか西洋医学の薬より効きそうな気がする。風呂に入って寝る。