「YS-11 プライドオブジャパン」

分厚い封筒が届いた。テクノブレイン社からだ。「何だっけ?」と思って開封すると、注文していた映像ソフト「YS-11 プライドオブジャパン」だった。月刊「AIRLINE」8月号に掲載されていた広告を見て注文したのを、すっかり忘れていた。シミュレーションゲーム「ぼくは航空管制官」シリーズを出している同社の航空機CG技術を駆使し、YS-11の「バーチャルフライト」と「デジタル資料館」を提供しようという映像ソフトである

厚手のブックレット式のジャケットにCD1枚、ユーザマニュアルや付録が収められている。付録のうち、YS-11用の「通常航行用チェックリスト」と「安全のしおり」の復刻版は貴重だ。付録をはさんであるベロは、YS-11試作1号機の垂直尾翼の形をしている。

さっそく、デスクトップPCにインストールし、ソフトを起動してみる。まず、本ソフトの売り物の「バーチャルフライト」を試す。広島西飛行場を発着するいくつかのフライトプランの中から好きなものを選び、機種選定、出発・巡航・到着設定などを行う。「フライトスタート」ボタンを押下すると、あとは、プリレンダリングのCGを鑑賞することになる。乗降用階段の折り畳み、エンジン始動、「ダート・サウンド」と呼ばれた独特の甲高いエンジン音、衝突防止灯の点滅など、細部にわたってリアルに再現されている。第三者視点、操縦室、客室、管制塔、俯瞰と視点を随時切り替えることができるうえ、飛行中の機体に対するカメラ座標を移動することもできる。

しかし、ポリゴンの角が取り切れておらず、機体、情景ともカクカクした印象がある。飛行中の機体は、「ぼく管」シリーズの航空機のようなデフォルメ傾向を感じさせる。何より、情景の再現が不十分で、広島市街は、「水の都」と言うよりは、地球温暖化による海進のため、水没しかかっているように見える。さらに、瀬戸内海は、江田島や宮島を始め、一切の島影がないどころか、四国島も見えない大海原と化している。環境破壊の告発というメッセージを込めたのであれば別だが、これでは、わざわざ飛行空域を広島西飛行場を中心とする半径20kmに限定したうえで、ユーザが航路や飛行高度を比較的自由に設定できるにようにした意味がない*1。いっそのこと、下地島空港に設定すればよかったのではないか。

他方、「3D図鑑」は面白い。こちらのCGは、精密にモデリングされている。プロペラ、降着装置、客扉、フラップ、エルロン、舵等々、あらゆる可動部分を動かしてみることができる*2。マウス操作で、機体を360度回転したり、拡大・縮小したりできるので、模型製作時の参考になる。機体は、JA8611(製造番号1001。試作1号機)、JA8712(製造番号1049。航空局)、JA8772(製造番号2146。エアーニッポン最終便機)のモヒカン塗装とANK塗装の3機種4塗装が選択できる。

本ソフトは、店頭販売はせず、テクノブレイン社のホームページでのネット販売のみということだ。内容から見ても、YS-11ファンを自認するマニア向けの商品ということになるようだ。

*1:広島市街や江田島海軍兵学校、宮島の厳島神社などの遊覧飛行をしようと思っても、無駄である。

*2:レドームを開けて、中のレーダを動かすことまでできる。