歌舞伎「仮名手本忠臣蔵」

歌舞伎座1階の幕見用の切符売場はもう閉まっていたが、4階に上がっていくと、ちょうど三段目が終わって、四段目への舞台転換中ということで、入場できた。塩冶判官が切腹する四段目の前半は「通さん場」なので、もう少し遅かったら入れてもらえないところだった。席に着いたところで、四段目開始。歌舞伎の幕見をするのは久しぶりだ。

菊五郎(塩冶判官)、梅玉(石堂右馬之丞)、魁春(顔世御前)、左團次薬師寺二郎左衛門)、幸四郎(大星由良助)という豪華な顔ぶれだ。特に、菊五郎の塩冶判官は格調高く、切腹を行う畳に足をかけるとき、躊躇して人間味を垣間見せる。幸四郎の由良助も、終始苦渋の表情が印象的だ。塩冶判官の切腹後、顔世御前も加わって葬送の儀式が行われる。場内に香の匂いが立ち込める。その後、由良助を中心に、今後の対応策を協議する「評議」が続く。このあたりは、文楽とは異なる歌舞伎独自の創作だ。

最後は、「扇ケ谷表門城明渡しの場」になる。大道具の門が徐々に引いていき、由良助の歩みを表現する。文楽では、由良助が塩冶判官の切腹刀で提灯の家紋を切り取り、刀を眺めて仇討ちを決意するが、歌舞伎では、刀の切先についている塩冶判官の血を舐めて、決意を固める。送り三重の三味線に送られて、花道を去っていく。

同じ演目を文楽と歌舞伎で見比べ、なかなか興味深かった。いずれも、独自の魅力があると言えるだろう。どちらが好きか、と問われれば、三業の緊張関係の中で物語が紡がれていく文楽だ。

歌舞伎座1階の「暫」で遅い昼食をとった後、羽田空港へ行くことにする。築地市場から都営地下鉄大江戸線で大門まで行き、東京モノレールに乗る。第1ターミナル駅で下車。