「海ゆかばのすべて」

先日、映画「月光の夏」のDVDを観て、改めて「海ゆかば」に感銘を受けたので、キング・レコードから出ている「海ゆかばのすべて」と題するCDをamazonで注文したところ、今日届いた。「海ゆかば」とその所縁の曲を25種類にも及ぶ演奏で網羅したCDである。男性独唱による正調の演奏も数種類収められているが、珍しいところでは、

  • 林光*1編曲の弦楽四重奏
  • クラウス・プリンクスハイム編曲のチェロ・ピアノ二重奏版
  • マンフレート・グルリット編曲のピアノ変奏曲版

などがある。戦中・戦後の日本のクラシック・オペラ楽壇の発展に貢献したドイツ人たちがこの曲を編曲しているのが興味深い。そのほかに特筆すべきは、1943年10月21日に神宮外苑競技場で行われた出陣学徒壮行会における合唱の歴史的録音も含まれている。

わずか15小節、演奏時間にして1分余りの短い曲だが、襟を正さずにはいられない厳粛さがある。戦争の記憶と結び付けられて歴史の闇に葬られてしまうには、あまりに惜しい曲だ。歌詞が現代の政治体制にそぐわないのであれば、旋律だけでもよい。サミュエル・バーバーの「弦楽のためのアダージョ*2アメリカの「国民的悲歌」として演奏されているのと同様、「海ゆかば」も「国民的鎮魂曲」として演奏されてもよいと思う。
海ゆかばのすべて

*1:反戦派と目されているこの作曲家が編曲を手がけているのが興味深い。

*2:映画「プラトーン」の主題曲として一躍有名になった曲である。