「鋼密度模型TIGER-I」

昨日買った「鋼密度模型TIGER-I」を組み立てる。1/48スケールで戦闘室内部やエンジンを含む駆動系まで再現した模型である。乗員5人のフィギュアも入っている。開封してみると、サンドイエローの迷彩塗装の第501重戦車大隊231号車(第2中隊第3小隊指揮車)とグレーの迷彩塗装の第503重戦車大隊323号車(第3中隊第2小隊3号車)の2セットだった。

解説書*1に従って組み立てていくが、これが親切とは言いがたい。手順7・8がどこにもないほか*2、手順だけに従って組み立てていくと、車体左右と床下の砲弾架を取り付け忘れ、後で組み直しを余儀なくされる。手順1-2では、履帯をまず駆動輪にかけてから、誘導輪にかけるように指示しているが、誘導輪をセンターガイドの間に挟むのが難しく、下手をすると薄い誘導輪を折ってしまうので、まず誘導輪にかけてから、一気呵成に駆動輪にかけた方がよい。

出来上がりはすばらしい。左右非対称の砲塔形状など、プロポーションや細部の表現は、スケールモデルとしても十分通用する水準だ。戦闘室内は、機関銃や操縦手・無線手用のペリスコープなどの省略はあるものの、概ね忠実に再現されている。マイバッハ・エンジン*3、プロペラシャフト、巨大な変速機も、それらしい仕上がりだ。器具の取付位置にしつこく書き込まれたドイツ語もややオーバースケールながら再現されている(ドイツ語の綴りが正しいかどうかまではチェックしていないが)。

咽喉マイクを押さえて下令中の車長*4、照準中の砲手、徹甲弾を抱えた装填手、ハンドルに手をかけた操縦手、書類に目を落としている通信手もよくできている。5人のフィギュアを戦闘室に配置すると、その閉塞感がよくわかる。ひとり忙しく立ち働く装填手以外は、身動きもままならない場所に座っている。閉所恐怖症の人は戦車乗りにならない方がいいだろう。

外観上、惜しまれるのは、車長用キューポラの覘視孔を省略していることである。円筒状の車長用キューポラは、ティーガー初期型の特徴なので、目立つ省略だ。いっそ、田宮模型の1/48のティーガー初期型を買って、砲塔上部を丸ごと換装してしまおうか・・・。いかんいかん、これで1/48のAFVにまで嵌り出したら、収集がつかなくなる。

ティーガーは、無限に改良を重ねないと気がすまないドイツ人が作った兵器の例に漏れず、大きく分けて極初期型、初期型、中期型、および後期型があり、さらに各型に無数のバリエーションがある。おかげで、製造時期を概ね特定することが可能だ。この模型が再現している車輌はいつ製造されたものか。まず、初期型であることは明らかだ。学研「図説ティーガー重戦車パーフェクトバイブル」*5大日本絵画「アハトゥンク・パンツァー第6集・ティーガー戦車編」を参考にすると、ファイフェル・フィルターが改良型であり、かつ砲塔上部に装填手用のペリスコープがない、という特徴から、1943年3月に生産された41輌のうちの1輌を再現していることがわかる。

第501重戦車大隊231号車と第503重戦車大隊323号車がこの時期に生産されたものであったかどうかは微妙だ。チュニジア戦線に投入された第501重戦車大隊の20輌のティーガーは、1942年11月にチュニジアへ揚陸されているので、いずれも極初期型だったと見るべきだろう。事実、チュニジア戦線のティーガーの写真は、極初期型ばかりだ。他方、東部戦線の第503重戦車大隊323号車は、実車写真もあり、初期型であることは間違いないが、製造時期の特定まではできない*6。仮に、323号車が1943年3月製だったとすれば、クルスク戦あたりが初戦だったことになる。

そもそも、戦闘室内が再現されたティーガーというと、かつて田宮模型から出た1/25のプラモデルが嚆矢だ。発売早々、クリスマスプレゼントに買ってもらった。子供の手には余る巨大なプラモデルだったが、それだけに、戦車の内部が複雑な機構になっていることは理解できた。そして、詳細を極めた解説書に夢中になったものである。そこに収録されていたミヒャエル・ヴィットマンSS大尉の戦記を読んで、戦争というものが、固有名詞を持つひとりひとりの将兵の闘いの集積であることを初めて実感した。それ以来、私は、ドイツ軍贔屓になり、今に至っている。

先週末、私がネットでこの模型の広告を眺めていたところに、偶々次女がやってきて画面を覗き込み、「これは、ちかぢか家に届くな。パパがパソコンで熱心に見ているものは、必ず来る。」と図星なことを言った。今日も、CD棚にしれっと飾っておいたティーガー2輌を目敏く見つけ、「やっぱり来たか・・・。」
クマのプーさん プー横丁にたった家 図説ティーガー重戦車パーフェクトバイブル―決定版 (歴史群像シリーズ―Modern Warfare) アハトゥンク・パンツァー〈第6集〉ティーガー戦車編

 

*1:ご丁寧に、「ティガー」「ティーガー」「ティーゲル」「タイガー」と4通りの呼び名が文中に登場する。「ティガー」というディズニー版の「くまのプーさん」に出てくるトラのような呼び方は初めて目にする。だったら、石井桃子訳に倣って「トラー」としたらどうだろう。

*2:手順自体が存在しないので、単なる採番ミスだが、部品をなくしたのではないかと不安になる。

*3:1943年5月以降に搭載の始まったHL230P45型を再現しているが、この車輌の製造時期を考慮すると、HL210P45型にすべきであった。

*4:ドイツ軍戦車の乗員は、戦闘中の車内通話にヘッドホンとマイクを使用していたので、車長・無線手以外の乗員にもヘッドホンをつけてほしかったところだ。

*5:ティーガー乗員のための教則本ティーガーフィーベル」の翻訳付復刻が付録についているなど、文字通り、ティーガー愛好者の「パーフェクトバイブル」である。

*6:あいにく、手前に写っている乗員に遮られて、砲塔上部のペリスコープの有無が確認できない。