「雪風ハ沈マズ」読了

豊田穣雪風ハ沈マズ」(光人社NF文庫)を読了した。駆逐艦雪風」の生涯を綴ったノンフィクションだ。「雪風」は、太平洋戦争開戦時はシンガポール攻略に参加したため、真珠湾攻撃には参加していないものの、以降、スラバヤ沖海戦、ミッドウェー海戦、第三次ソロモン海戦ガダルカナル補給・撤収戦、ビスマルク海戦、コロンバンガラ沖夜戦、マリアナ沖海戦、レイテ・サマール沖海戦、菊水一号作戦(「大和」沖縄特攻)等の太平洋戦争中の主要な作戦に悉く従事し、そのすべてを奇跡的に生き延びた艦である。すなわち、「雪風」の戦記は、帝国海軍の戦記そのものであると言ってよい。

敗戦時には、同型艦である陽炎型駆逐艦19隻中唯一の生存だった。陽炎型の原型である朝潮型10隻、改良型である夕雲型19隻も全滅しており、同型駆逐艦48隻中ただ一隻、生き残ったことになる。これは、武運のよさもあるが、何より、第五代艦長・寺内正道に代表されるように、歴代の指揮官たちが「フネは沈めない。部下は無駄死にさせない。」との信念のもと、巧みな操艦によって敵の爆雷撃をかわしたことによる。その結果、戦死者は10名に満たず、逆に、戦艦「比叡」「金剛」「武蔵」「大和」、空母「信濃」などの主要艦の最期を看取ることになる。

意外だったのは、「雪風」は、敗戦直前に巡洋艦「酒匂」を旗艦とする第六艦隊第三十一戦隊に編入されていたこと、敗戦直後わずかな期間ではあるが、巡洋艦インディアナポリス」を撃沈した伊58潜水艦の元艦長・橋本以行が「雪風」の艦長を務めたことだ。「雪風」、「酒匂」、伊58潜の運命が敗戦前後に交錯していたことになる。これらの戦闘艦の物語は、日本人の記憶に留められてよいと思う。
http://d.hatena.ne.jp/Wilm/20050902
http://d.hatena.ne.jp/Wilm/20060113
http://d.hatena.ne.jp/Wilm/20060128

写真は、江田島海上自衛隊第一術科学校(旧帝国海軍兵学校)の庭に残る「雪風」の主錨である。ここを訪れた一昨年当時は、不覚にも「雪風」の物語を知らなかったので、写真を撮り損ねていたが、たまたま特殊潜航艇「甲標的」の背景に写っていた。手前の右は戦艦「大和」の46cm主砲砲弾、左は三景艦*1の32cm主砲砲弾である。
http://d.hatena.ne.jp/Wilm/20040812
ISBN:4769820275

*1:日清戦争で活躍した戦艦「松島」「橋立」「厳島