巡洋艦「酒匂」

タカラの連斬模型シリーズの新作「矢矧」が出た。「矢矧」は、菊水一号作戦の際、「大和」を護衛する円形隊形でつねに先導を勤め、「大和」とともに沈没した軽巡洋艦である。私の「大和」は、捷一号作戦時であり、そのとき「矢矧」は「大和」ではなく、戦艦「金剛」の護衛についているから、関係ない。このシリーズには手を出すまいと決めていた。

しかし、最近私の職場に異動してきた同僚が筋金入りの食玩マニアで、さっそく3箱買ってきて、お節介にも見せてくださる。バラで買ったらしく、艦首「矢矧」、機関部「阿賀野」、艦尾「酒匂」とばらばらであるが、シークレットが「酒匂」の特別輸送艦仕様であることを知るや、俄かにほしくなってきた。1944年11月30日に竣工した「酒匂」は、一度も戦闘に加わることなく敗戦を迎え、武装解除の後、復員輸送に従事。1946年7月1日、戦艦「長門」、ドイツ海軍の重巡洋艦プリンツ・オイゲン」とともに、ビキニ環礁での原爆実験の標的艦にされ、最初の空中爆発実験で炎上・沈没している。*1わずか1年7ケ月の生涯であった。艦名の由来である酒匂川は、水系の全流域が神奈川県内の二級河川だ。神奈川県民としては買うしかない(と自らを鼓舞する)。

昨夜、匿名掲示板で調べて、ボックス内の3列のうち、奥か中央の列が「酒匂」であるという情報を得たうえで、会社の帰りにヨドバシカメラに寄る。「矢矧」が置いてあるが、開いているボックス内の箱は、見たところ、ばらばらだ。意を決して、
「すみません、新しいボックスを開けていただけますか。」と店員に頼む。恥ずかしい。
店員は快く開封してくれたが、こぼれ落ちた箱を戻す際、無意識かわざとか、順番を入れ替えてしまう。店員が去った後、順番を元に戻し、さて、奥か中央かと思案する。
「どちどちどちらにしようかな、天の神様の言う通り。」と念じる。口に出して唱えたわけではないが、かなり恥ずかしい。
「柿の種。」
中央の列の3箱に決め、購入した。帰宅後、開封の息詰まる瞬間。「酒匂」だった。復員船の印として舷側に日の丸が描かれている。もうこれで、このシリーズには手を出すまい(という誓いには、必ずしも自信が持てないのであった)。

*1:長門」は、7月1日の空中爆発実験、7月25日の水中爆発実験を耐えた後、7月30日未明に人知れず沈没。「プリンツ・イオゲン」もいずれの実験も生き延び、12月21日に回送途上のクェゼリン環礁で転覆・座礁。両艦とも、帝国海軍、ドイツ海軍の最後の面目を施している。