「戦略の本質」読了

野中郁次郎ら著「戦略の本質」を読了した。長征、バトル・オブ・ブリテンスターリングラード攻防戦、仁川上陸作戦、第4次中東戦争ヴェトナム戦争の6つのケースを採り上げ、勝者の視点から勝機を分析し、「戦略の本質」を解明しようという試みである。前作「失敗の本質」が力作だったので、期待して読み始めた。

しかし、読み手を見つけるのが難しい本だというのが率直な読後感だ。まず、企業経営戦略の指南本と思って読むと、間違いなく裏切られる。さりとて、軍事戦略の専門書かというと、そうでもない。著者が潔く認めている通り、一次史料に依拠していないので戦史とも言えない。このことは、ヴェトナム戦争だけが敗者アメリカ側から分析されていることに端的に表れている。理由は簡単で、勝者ヴェトナム側の二次史料が日本語または英語で入手できなかったからだろう。

6つのケースに共通するのは、「勝者のリーダーは賢慮がありました。」「敗者のリーダーはアホでした。」ということで、そこから「戦略の本質は、リーダーシップである。」と力強く結論づけられても、目から鱗が落ちた気はあまりしない。結局、長征、仁川、第4次中東戦争というあまり馴染みのない戦争の知識を得たことが収穫であった。やはり、「なぜ負けたか。」を後知恵で講釈するのは容易だが、「どうすれば勝てるか。」を普遍的真理として帰納するのは難しいということなのだろう。
戦略の本質 戦史に学ぶ逆転のリーダーシップ 失敗の本質―日本軍の組織論的研究